「若いころのように疲れがとれない」「肌や体に張りがなくなってきた」「ちょっとした傷の治りが遅い」——年齢を重ねると、こうした変化を感じる方は少なくありません。その背景にはさまざまな要因がありますが、その一つとして知られているのが「成長ホルモン」の変化です。

成長ホルモンというと「子どもが背を伸ばすためのもの」というイメージが強いかもしれません。けれども実際には、大人になってからも、体の修復やエネルギーの調整に深く関わり続けるホルモンです。

この記事では、成長ホルモンが大人の体で何をしているのか、なぜ年齢とともに減るのか、そして「増やす」のではなく「自然なリズムを整える」という視点を、できるだけわかりやすく解説します。

成長ホルモンは「成長」だけのホルモンではない

成長ホルモンは、脳の下にある下垂体から分泌されるホルモンです。子どもの成長を促すことで知られていますが、その働きは成長期に限りません。

大人の体では、主に肝臓を介して「IGF-1」という物質をつくらせ、これを通じてさまざまな調整を行っています。代表的なはたらきとして、次のようなものが知られています。

  • 筋肉などのたんぱく質をつくり、組織を修復する
  • 脂肪を分解し、体組成を整える方向にはたらく
  • 骨や皮膚の状態を保つことに関わる
  • 日中に傷んだ細胞を、休んでいる間に立て直す

つまり成長ホルモンは、大人にとって「体をメンテナンスし、回復させる」ためのホルモンとしての側面が大きいのです。

加齢とともに減っていく——「ソマトポーズ」という現象

この成長ホルモンは、思春期にピークを迎えたあと、年齢とともにゆるやかに減っていくことが知られています。一般に、おとなになってからは10年ごとにじわじわと低下していくと報告されており、この加齢にともなう減少は「ソマトポーズ」と呼ばれることがあります。

回復力の低下や体組成の変化など、年齢とともに感じる体の移ろいの一部には、こうしたホルモン環境の変化が関わっていると考えられています。生物学的年齢という観点からも興味深いテーマで、年齢と体の中身の関係については「老化時計」とは何かで解説しています。

ただし、ゆるやかに減っていくとはいえ、その進み方が一律に決まっているわけではありません。睡眠や運動、ストレスの状態といった生活習慣によって変わりうると考えられており、だからこそ、体が本来もっている分泌の力を引き出し、支えていくことに意味があります。

カギは深い睡眠——成長ホルモンが出るタイミング

成長ホルモンには、分泌のされ方に大きな特徴があります。一日中だらだらと出ているのではなく、時間帯によって波のように分泌される(拍動性といいます)のです。

そして、その最も大きな波がやってくるのが、夜眠りについてまもなく訪れる「深い睡眠(深睡眠)」の時間帯です。順番としては、まず深く眠ることがあって、それに合わせて成長ホルモンが分泌されます。「成長ホルモンが出るから眠くなる」のではなく、「深く眠るから、それに合わせて分泌が起こる」という向きで理解しておくと、対策の的が絞りやすくなります。

つまり、成長ホルモンを大切にするうえで、睡眠の「質」、とりわけ眠り始めの深い眠りをしっかり確保することが、土台中の土台になるわけです。

自然に支える生活習慣の視点

では、成長ホルモンの自然なリズムを支えるために、どんなことが考えられるでしょうか。研究で言われている方向性を、いくつか挙げてみます。

  • 深い睡眠を確保する:寝る時間を一定に保ち、就寝前の強い光やスマートフォンを控えることが、眠り始めの深い睡眠を助けると考えられています
  • 就寝直前の食事・飲酒を避ける:血糖値が高い状態は、成長ホルモンの分泌を妨げやすいことが知られています。とくに寝る前の高糖質の食事や飲酒は控えめに
  • 運動を取り入れる:適度な運動、とくに筋肉に負荷をかける運動のあとには、成長ホルモンの分泌が高まりやすいと報告されています
  • ストレス(コルチゾール)をためこまない:ストレスホルモンであるコルチゾールが高い状態は、成長ホルモンの分泌を抑える方向にはたらきます。この点はコルチゾールを下げる科学でくわしく触れています

特別なことというより、結局は「よく眠り、よく動き、ストレスをためない」という、体の基本を整えることに行き着くのがわかります。

「増やせばよい」わけではない——救急医の視点から

ここで一つ、大切なことをお伝えしておきます。成長ホルモンは「多ければ多いほどよい」というものではありません。体には、必要なときに必要なだけ分泌され、それ以外は抑えられる、という絶姙なリズムが備わっています。このリズムを無視して外から無理に押し上げることには、慎重であるべきだと考えられています。目指したいのは「最大化」ではなく、加齢で乱れがちなこの自然なリズムを「整える」ことです。

私は銀座数寄屋橋クリニックの院長を務める前、約20年にわたり国立の医療機関で救急医として勤務し、延べ数万人の患者さんの診療にあたってきました。重症の患者さんが回復していく過程を数多く見てきて実感するのは、体の「立て直す力(回復力)」がいかに大切か、ということです。成長ホルモンは、まさにその回復のしくみを支える役者の一人です。だからこそ、その力を薬で代替するのではなく、本来のはたらきを引き出して支えるという発想を、私は大切にしています。

まとめ

  • 成長ホルモンは、大人にとっても体の修復・回復に関わる大切なホルモンで、加齢とともにゆるやかに減っていきます(ソマトポーズ)。
  • 最も大きな分泌は、眠り始めの深い睡眠の時間帯に起こります。「深く眠る→分泌される」という向きをおさえておくと対策の的が絞れます。
  • 目指すのは「増やす」ことより、睡眠・運動・ストレス対策によって自然なリズムを「整える」ことです。

睡眠・運動・ストレス対策といった生活習慣が土台であることは、研究でもくり返し示されています。これは間違いありません。ただ、わかってはいても、毎日それを続けることは想像以上に難しい——とくに多忙な方ほど、そう感じておられるのではないでしょうか。

だからこそ医学・科学は、「その土台づくりを、どうすれば無理なく支えられるか」を模索し続けています。当院が行うストレスフリー療法も、体への穏やかな温熱刺激を通じて、ストレス(コルチゾール)と血流を整えながら、体の内側から成長ホルモンの自然な分泌を支えることを目指す取り組みの一つです(研究知見にもとづくもので、はたらき方には個人差があります)。その科学的な考え方についてはストレスと老化の科学で解説しています。

体の回復力を支える土台づくりにご関心のある方は、当院のメニュー・料金ページもあわせてご覧ください。


よくある質問

Q. 成長ホルモンのサプリメントを飲めば若返りますか?
A. 成長ホルモンは「多ければよい」というものではなく、体に備わった自然なリズムが大切です。外から無理に押し上げることには慎重であるべきだと考えられています。当院では、薬で代替するのではなく、睡眠・運動・ストレス対策といった土台を整え、体本来の分泌を支えるという考え方を大切にしています。

Q. 何時に寝れば成長ホルモンが出やすいですか?
A. 「何時」よりも、「眠り始めにしっかり深く眠れているか」が重要だと考えられています。深い睡眠は眠り始めに多く現れるため、就寝前の強い光や直前の食事・飲酒を控え、入眠の質を整えることが役立ちます。

Q. 運動はどんなものがよいですか?
A. 適度な運動、とくに筋肉に負荷をかける運動のあとに分泌が高まりやすいと報告されています。無理のない範囲で、ご自身の体力に合った運動を続けることが基本です。具体的な進め方は、かかりつけ医ともご相談ください。


本記事は健康に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の検査・治療の効果を保証するものではありません。研究知見には今後の検証が必要な発展段階のものが含まれます。体の状態には個人差があります。

監修医プロフィール

院長

佐藤 琢紀(サトウ タクノリ)

元国立国際医療研究センター国府台病院救急科診療科長。専門:救急医療、集中治療、ストレスフリー療法、全人的医療。経歴:東北大学医学部卒、順天堂大学大学院卒。命の最前線である救急医療に20年以上従事。「病気になる前に救う」ための戦略的医療を提唱し、2023年より銀座数寄屋橋クリニック院長に着任。救急科専門医、医学博士。

メッセージ
こんにちは、院長の佐藤琢紀です。救急医として約20年間、36,000人もの診療に当たってきました。「病気になる前に救いたい」という思いから、いまは予防と若返りの医療へ。専門的な話もできるだけ自分の言葉でやさしくお届けします。様々な情報が溢れる時代だからこそ、「元氣で楽しい人生」を送る“本物”のヒントを皆さまに提供してまいります。 こちらでお願いいたします。