体内時計の乱れと老化——概日リズムはなぜ加齢とともに崩れるのか
朝になると自然に目が覚め、夜になると眠くなる。日中は体温が上がり、深夜には下がる。特に意識しなくても、私たちの体はおよそ一日の周期に沿って、ゆるやかに波を描いています。
この約24時間の周期を刻む仕組みを「概日リズム(がいじつリズム/サーカディアンリズム)」、日常の言葉では「体内時計」と呼びます。
そしてこの体内時計は、生涯ずっと同じ調子で動き続けるわけではありません。年齢を重ねるにつれて、少しずつその針の進み方や振れ幅が変わっていきます。この記事では、体内時計とはどういう仕組みなのか、加齢とともに何が変わるのか、そして老化とどう結びつくと考えられているのかを、できるだけわかりやすく解説します。
体内時計とは——細胞の一つひとつが時を刻んでいる
体内時計というと、脳のどこかに一つだけ時計があるようなイメージを持たれるかもしれません。実際にはもう少し複雑で、二階建ての構造になっています。
一階部分にあたるのが、脳の視床下部にある「視交叉上核(しこうさじょうかく)」という小さな神経の集まりです。ここは全身の指揮者にあたる「中枢時計」で、目から入る光の情報を受け取って、体全体の時刻合わせを行っています。
二階部分にあたるのが「末梢時計」です。肝臓、心臓、腎臓、筋肉、脂肪、そして皮膚に至るまで、体のほとんどすべての細胞が、それぞれ自分の時計を持っています。
では、細胞はどうやって時を刻んでいるのでしょうか。その正体は、遺伝子どうしのやりとりです。「時計遺伝子」と呼ばれる一群の遺伝子が、タンパク質をつくり、そのタンパク質が今度は自分自身の遺伝子の働きを抑える——この転写と抑制のフィードバックが一巡するのに、およそ24時間かかります[1]。この分子レベルのループが、私たちの一日のリズムの土台になっています。
なお、この体内時計の分子メカニズムの解明は、2017年のノーベル生理学・医学賞の対象にもなりました[2]。私たちの体が「時間」を持っているという事実は、いまや現代生物学の基盤のひとつです。
リズムはホルモン・体温・自律神経を動かしている
体内時計は、ただ眠気を左右するだけの仕組みではありません。全身のさまざまな生理機能が、この時計に合わせて一日の中で変動しています。
たとえばストレスホルモンであるコルチゾールは、明け方から早朝にかけて分泌が高まり、夜間に下がります。眠りを促すメラトニンは逆に、暗くなると分泌が増えていきます。深部体温は夕方に高く、明け方に最低になります。自律神経も、日中は交感神経が、夜間は副交感神経が優位になりやすいという日内のリズムを持っています。
つまり体内時計は、ホルモン・体温・自律神経・代謝という体の基本機能に、時間という横糸を通している存在です。自律神経のバランスそのものについては自律神経の乱れを整えるで、深い眠りと成長ホルモンの関係については加齢で減る成長ホルモンでくわしく解説しています。
加齢とともに、時計はどう変わるのか
年齢を重ねると、体内時計にはいくつかの変化が現れることが知られています。
これまでの研究をまとめたレビューでは、加齢に伴って、リズムの振れ幅(一日の中の高低差)が小さくなること、リズムの位相が前にずれやすくなること、そして眠りと目覚めのパターンが細かく分断されやすくなることなどが報告されています[3]。
高齢になるほど「早く目が覚めてしまう」「夜中に何度も目が覚める」といった声が増えるのは、単に眠りが浅くなるからというだけでなく、時計そのものの振れ幅が小さくなり、昼と夜のメリハリがつきにくくなることが背景にあると考えられています。
もうひとつ、加齢では光を受け取る側の変化も関わります。目に届く光の量は年齢とともに減少しやすく、中枢時計への「時刻合わせ」の信号が弱まりやすくなります。時計そのものと、時計を合わせる入力の両方が変わっていく——これが、加齢に伴うリズム変化の全体像です。
「ずれ」が体に何をもたらすか——概日ミスアライメント
体内時計の研究で注目されてきたのが、「概日ミスアライメント」と呼ばれる状態です。体内時計が示す時刻と、実際の生活(睡眠・食事・活動の時間帯)とがずれてしまう状態を指します。
この「ずれ」を実験室で人工的につくり出した研究では、血糖やインスリン、血圧といった代謝・循環の指標が、ずれのない条件と比べて好ましくない方向に変化することが報告されています[4]。短期間の介入研究であり、そのまま長期の健康影響を意味するものではありませんが、体内時計と生活時間のずれが、体の状態に実際に効いていることを示す重要な知見です。
疫学の側からも、時計のずれと健康の関係が検討されてきました。国際がん研究機関(IARC)は2019年の評価で、夜勤(概日リズムを乱す交代勤務)を「ヒトに対しておそらく発がん性がある(グループ2A)」と分類しています[5]。ここで大切なのは、この分類が「危険性の強さ」ではなく「証拠の確からしさ」の区分であり、夜勤に従事する方が必ず病気になるという意味ではない、という点です。過度に不安を感じる必要はありませんが、社会全体として、働く時間帯と体内時計の関係に目を向ける価値があることを示しています。
体内時計を整える——日々の手がかり
体内時計は遺伝子に根ざした仕組みですが、外からの入力によって毎日調整されている、比較的しなやかな仕組みでもあります。この「時刻合わせ」の入力を整えることが、リズムを保つうえでの手がかりになると考えられています。
- 朝の光を浴びる:起床後、屋外の明るさを浴びることは、中枢時計への最も強い時刻合わせの信号になります。室内照明では屋外に比べて明るさが大きく劣るため、短時間でも外に出ることが助けになります。
- 夜は光を控えめに:就寝前の強い光は、メラトニンの立ち上がりを遅らせる方向に働くことが指摘されています。就寝前の照明やスクリーンの明るさを落とすことが勧められます。
- 食事の時刻をそろえる:末梢時計、とりわけ肝臓などの臓器の時計は、食事のタイミングの影響を受けやすいと考えられています。毎日ほぼ同じ時刻に食べること、特に深夜の食事を避けることが、リズムの安定に役立つ可能性があります。
- 起床時刻を一定に保つ:就寝時刻より、起床時刻をそろえるほうがリズムは安定しやすいとされています。休日に大きく寝坊すると、時差ぼけに似た状態(いわゆるソーシャル・ジェットラグ)が生じやすくなります。
- 日中に体を動かす:日中の活動は、昼と夜のメリハリを大きくする方向に働きます。
いずれも「必ずリズムが整う」「老化が止まる」ことを保証するものではありません。けれども、体の土台を支える生活の基本として、確かな意味を持つ手がかりです。眠っても疲れがとれないという悩みそのものについては、寝ても疲れが取れない——眠りの「質」であらためて解説しています。
「時間」が体に効いている——救急医の視点から
私は銀座数寄屋橋クリニックの院長を務める前、約20年にわたり国立の医療機関で救急医として勤務し、延べ約36,000人の患者さんの診療にあたってきました。
救急の現場は、夜勤や当直の連続も珍しくありません。深夜に働き、明るくなってから眠る生活を続けていると、自分自身の体がどれほど「時間」に支配されているかを、身をもって知ることになります。同じ量の睡眠をとっていても、時間帯がずれるだけで、翌日の頭の冴えも、食欲も、体調そのものも違ってくる。それは実感として、はっきりとしたものでした。
そして深夜帯の救急外来に立っていると、心血管系の急変が明け方に集中しやすいことなど、病そのものにも時間の傾きがあることを何度も見てきました。医学は長く「何が起きているか」を問うてきましたが、「それが一日のいつ起きているか」もまた、体を理解するうえで無視できない軸だと考えています。
暦の上の年齢が同じでも、体の状態が人によって大きく違うことについては老化時計とは何かでも触れました。体内時計は、その「体の状態」を日々つくっている、静かで大きな土台のひとつです。
まとめ
- 体内時計(概日リズム)は、脳の視交叉上核にある中枢時計と、全身の細胞が持つ末梢時計の二階建てで構成され、時計遺伝子の約24時間のフィードバックループによって刻まれています。
- 加齢に伴い、リズムの振れ幅が小さくなる、位相が前にずれる、睡眠と覚醒が分断されやすくなるといった変化が報告されています。光を受け取る力の変化も関わります。
- 体内時計と生活時間の「ずれ」は、実験研究で代謝・循環の指標を好ましくない方向に変化させることが示されています。朝の光・夜の減光・食事と起床時刻の一定化が、リズムを支える手がかりとして期待できます(効果には個人差があります)。
体内時計は、私たちが意識しないところで一日の体調をかたちづくり、年齢とともに静かに姿を変えていく仕組みです。何を食べるか・どれだけ眠るかだけでなく、「いつ」光を浴び、「いつ」食べ、「いつ」起きるか——その時間の設計に目を向けることが、これからの若々しさとの向き合い方のひとつになると考えられます。
当院が行うストレスフリー療法も、深部体温や自律神経といった体の土台に穏やかな温熱刺激を通じてはたらきかけ、日々のリズムを支えることを目指す取り組みです(研究知見にもとづく予備的なもので、はたらき方には個人差があります)。その科学的な考え方についてはストレスと老化の科学で解説しています。
体のリズムや細胞レベルの若々しさにご関心のある方は、施術の流れや費用をまとめた当院のメニュー・料金ページもあわせてご覧ください。
よくある質問
Q. 休日に寝だめをすると、体内時計は乱れますか?
A. 休日に起床時刻が大きく後ろにずれると、月曜の朝に軽い時差ぼけのような状態が生じやすくなることが指摘されています(ソーシャル・ジェットラグ)。睡眠不足を補うこと自体は悪いことではありませんが、起床時刻のずれをできるだけ小さく抑え、朝の光を浴びることが、リズムを保つうえでの手がかりになります。
Q. 夜勤の仕事をしています。健康への影響が心配です。
A. 国際がん研究機関(IARC)は夜勤を「おそらく発がん性がある(グループ2A)」と分類していますが、これは危険の大きさではなく証拠の確からしさに関する区分であり、夜勤に従事する方が必ず病気になるという意味ではありません。勤務の時間帯を自分で選べない方も多くいらっしゃいます。過度に不安を抱えるよりも、勤務明けの光環境や食事の時刻を整えるなど、できる範囲で時計への負担を減らす工夫と、定期的な健康チェックを継続することが現実的です。
Q. 体内時計を整えれば、老化を遅らせることはできますか?
A. 体内時計の乱れと代謝や循環の指標との「関連」は報告されていますが、「リズムを整えれば老化が遅くなる」と断定できる段階ではありません。研究はまだ進められている途上です。ただし、朝の光・規則的な食事・一定の起床時刻といった習慣は、体の土台を整えるうえで確かな意味をもつと考えられます。
参考文献
- Takahashi JS.「Transcriptional architecture of the mammalian circadian clock」(2017年、Nature Reviews Genetics, 18:164–179)— 哺乳類の概日時計が、時計遺伝子の転写・翻訳の負のフィードバックループによって細胞自律的に駆動されることを整理した総説。doi:10.1038/nrg.2016.150. 出典
- The Nobel Prize in Physiology or Medicine 2017(Jeffrey C. Hall, Michael Rosbash, Michael W. Young/概日リズムを制御する分子メカニズムの発見)— ノーベル財団公式発表。出典
- Hood S, Amir S.「The aging clock: circadian rhythms and later life」(2017年、Journal of Clinical Investigation, 127(2):437–446)— 加齢に伴う概日リズムの振幅低下・位相前進・睡眠覚醒の断片化と、その背景にある生理学的機序を整理した総説。doi:10.1172/JCI90328. 出典
- Scheer FAJL, Hilton MF, Mantzoros CS, Shea SA.「Adverse metabolic and cardiovascular consequences of circadian misalignment」(2009年、PNAS, 106:4453–4458)— 実験室で概日ミスアライメントを再現し、血糖・インスリン・血圧等の指標が好ましくない方向に変化することを示した介入研究。doi:10.1073/pnas.0808180106. 出典
- IARC Monographs on the Identification of Carcinogenic Hazards to Humans, Volume 124: Night Shift Work(国際がん研究機関、2020年刊行/2019年評価)— 夜勤をグループ2A(ヒトに対しておそらく発がん性がある)と分類した公的評価。出典
- Ryotokuji K, et al.「Effect of pinpoint plantar long-wavelength infrared light irradiation on subcutaneous temperature and stress markers」(2013年、Laser Therapy, 22:93–102)— ストレスフリー療法における温熱照射と皮下温度・ストレスマーカーの変化を検討した開発者グループによる予備的研究。
※上記の研究知見は概日リズムと生理機能の関係を示すものであり、特定の治療や生活習慣による老化の抑制・若返りを保証するものではありません。ストレスフリー療法に関する研究は小規模・予備的なものを含み、はたらき方や結果には個人差があります。
本記事は健康に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の検査・治療・製品の効果を保証するものではありません。健康に関する不安がある場合は医療機関にご相談ください。体の状態には個人差があります。
監修医プロフィール
院長
佐藤 琢紀(サトウ タクノリ)
元国立国際医療研究センター国府台病院救急科診療科長。専門:救急医療、集中治療、ストレスフリー療法、全人的医療。経歴:東北大学医学部卒、順天堂大学大学院卒。命の最前線である救急医療に20年以上従事。「病気になる前に救う」ための戦略的医療を提唱し、2023年より銀座数寄屋橋クリニック院長に着任。救急科専門医、医学博士。
- メッセージ
- こんにちは、院長の佐藤琢紀です。救急医として約20年間、36,000人もの診療に当たってきました。「病気になる前に救いたい」という思いから、いまは予防と若返りの医療へ。専門的な話もできるだけ自分の言葉でやさしくお届けします。様々な情報が溢れる時代だからこそ、「元氣で楽しい人生」を送る“本物”のヒントを皆さまに提供してまいります。 こちらでお願いいたします。
