エピジェネティック・クロックとは?DNAメチル化でわかる「本当の年齢」をやさしく解説
同窓会に行くと、同じ年齢のはずなのに、驚くほど若々しい人もいれば、そうでない人もいる——だれもが一度は感じたことのある光景ではないでしょうか。カレンダーが刻む「暦(こよみ)の年齢」は全員に平等ですが、体の内側の「本当の年齢」は、どうやら人それぞれのようです。
では、その「本当の年齢」を、感覚ではなく数字で測ることはできるのでしょうか。近年、この問いに答える有力な手がかりとして注目されているのが、「エピジェネティック・クロック(epigenetic clock)」です。
この記事では、エピジェネティック・クロックとはそもそも何なのか、なぜDNAから年齢が読み取れるのか、そして何が分かって何が分からないのかを、できるだけわかりやすく解説します。なお、暦の年齢と生物学的年齢の違いという全体像については「老化時計」とは何かで、生物学的年齢の測り方全般については生物学的年齢はどう測る?でくわしく解説していますので、あわせてご覧ください。
目次
エピジェネティクスとは——DNAの「使い方」の目印
はじめに、「エピジェネティクス」という言葉を整理しておきます。
私たちの体をつくる設計図がDNAです。この設計図そのもの(遺伝子の並び)は、生まれてから基本的に変わりません。ところが、同じ設計図を持っていても、細胞ごとに「どの遺伝子を使い、どれを使わないか」は違います。皮膚の細胞と肝臓の細胞が、同じDNAを持ちながらまったく別の姿をしているのは、このためです。
この「遺伝子の使い方」を切り替えるスイッチのような仕組みが、エピジェネティクスです。その代表が「DNAメチル化」と呼ばれる目印で、DNAの特定の場所に小さな標識(メチル基)が付いたり外れたりすることで、遺伝子のはたらきが調節されています。
なぜDNAで「年齢」がわかるのか
ここからが本題です。研究者たちは、たくさんの人のDNAメチル化のパターンを年齢と照らし合わせるうちに、あることに気づきました。特定の場所のメチル化の付き方が、年齢とともに規則的に変化していくのです。
ある場所は歳を重ねるほどメチル化が進み、別の場所は逆に外れていく——この変化は、多くの人でおおよそ共通した「時を刻むリズム」を持っていました。そこで、年齢と強く連動する数百か所のメチル化の状態を選び出し、それらを組み合わせて年齢を推定する数式がつくられました。これが「エピジェネティック・クロック」です。
2013年に発表されたホルバース(Horvath)の時計は、さまざまな組織で暦の年齢をよく言い当てることが示され、この分野の出発点となりました[1]。以来、多くの改良版が生まれています。
第一世代と第二世代——「暦の年齢」から「体の状態」へ
エピジェネティック・クロックは、大きく二つの世代に分けて理解すると分かりやすくなります。
第一世代の時計(ホルバースの時計など)は、「暦の年齢をできるだけ正確に言い当てる」ことを目指してつくられました。つまり、DNAから実際の年齢を推定するものです。
第二世代の時計は、目的が一歩進んでいます。単に暦の年齢を当てるのではなく、「その人の健康状態や、将来の見通しとどれだけ結びつくか」を重視して設計されました。たとえば2018年に報告された「PhenoAge(フェノエイジ)」という時計は、暦の年齢そのものよりも、健康にかかわるさまざまな指標とよく結びつくことが示されています[2]。
ここで面白いのは、エピジェネティック・クロックが示す年齢が、暦の年齢とずれることがある点です。時計の示す年齢が暦より高ければ「体は歳よりも進んでいるかもしれない」、低ければ「暦よりゆっくり進んでいるかもしれない」——そんなふうに、体の内側の時間の進み方をのぞく窓として関心を集めているのです。
何が分かって、何が分からないのか
期待の大きい分野ですが、冷静な線引きも大切です。
分かってきているのは、エピジェネティック・クロックが、集団で見たときに加齢や健康と統計的によく結びつく、ということです。研究の道具として、また加齢のスピードをとらえる指標として、有力だと考えられています。
一方で、注意すべき点もあります。時計にはいくつもの種類があり、どれを使うかで結果は変わります。一人ひとりの数値がどこまで正確に「その人の未来」を言い当てるかは、まだ研究が重ねられている段階です。また、「時計の数字を下げれば、それだけで若返る」と単純に言い切れるわけではありません。時計はあくまで体の状態を映す「指標」であって、数字そのものが原因ではないからです。
そのうえで、生活習慣——たとえば食事、運動、睡眠、喫煙やストレスなど——が、こうした加齢の指標と関連することは指摘されています。数字に一喜一憂するためではなく、「自分の体の時間の進み方を、生活を通じて支えられるかもしれない」という前向きな手がかりとして受けとめるのが、健やかな向き合い方だと考えられます。
「体の実年齢」を診るということ——救急医の視点から
私は銀座数寄屋橋クリニックの院長を務める前、約20年にわたり国立の医療機関で救急医として勤務し、延べ約36,000人の患者さんの診療にあたってきました。
救急の現場で強く感じてきたのは、「暦の年齢は、その人の体の余力をそのままは表さない」ということです。同じ80歳でも、大きな治療を乗り越えていく方もいれば、小さなきっかけで一気に弱ってしまう方もいます。カルテに書かれた数字よりも、体そのものが持っている「実年齢」というべき余力が、その後を大きく左右する——これを、私は幾度となく目にしてきました。
だからこそ、暦の年齢とは別に、体の内側の時間の進み方を数字でとらえようとするエピジェネティック・クロックの考え方には、大きな意味があると感じています。当院でも、DNAメチル化を読み取るアレイ(EPICアレイ)を用いて、生物学的な年齢の測定に取り組んでいます。自分の体の時間を知ることは、これからの健康を考える出発点になりうると考えています。
まとめ
- エピジェネティック・クロックは、DNAメチル化という「遺伝子の使い方の目印」のパターンから、生物学的な年齢を推定する仕組みです。
- 暦の年齢を当てる第一世代(ホルバースの時計など)から、健康状態との結びつきを重視する第二世代(PhenoAgeなど)へと発展してきました。
- 集団での加齢や健康と統計的に結びつく有力な指標ですが、種類によって結果は異なり、個人の未来を確定するものではありません。生活習慣との関連が指摘されています。
自分の体の「本当の年齢」を数字でとらえる試みは、これからの予防やアンチエイジングを考えるうえで、大きな可能性を秘めています。とはいえ、時計の数字は原因ではなく結果であり、日々の暮らしの積み重ねが、その針の進み方に関わっていくと考えられます。
当院が行うストレスフリー療法についても、細胞レベルの若返りにかかわる指標の変化を示す初期データが得られていますが、これは予備的な研究段階のものであり、はたらき方には個人差があります。その科学的な考え方についてはストレスと老化の科学で解説しています。
自分の生物学的年齢や、その支え方にご関心のある方は、当院のメニュー・料金ページもあわせてご覧ください。
よくある質問
Q. エピジェネティック・クロックは、健康診断の数値とは何が違うのですか?
A. 血圧やコレステロールなどの健康診断の数値は、いまの体の状態の一断面を映します。これに対しエピジェネティック・クロックは、DNAメチル化のパターンから「体の時間がどれくらい進んでいるか」という、加齢のスピードそのものをとらえようとする指標です。どちらも役割が異なり、補い合うものと考えられます。
Q. エピジェネティック年齢は、生活習慣で変えられるのですか?
A. 食事・運動・睡眠・喫煙・ストレスといった生活習慣が、こうした加齢の指標と関連することは指摘されています。ただし、「数字を下げれば必ず若返る」と単純に言い切れるわけではなく、時計はあくまで体の状態を映す指標です。研究が重ねられている段階であり、変化には個人差があります。
Q. テロメアの検査とエピジェネティック・クロックは同じものですか?
A. どちらも「生物学的年齢」をとらえる手がかりですが、見ているものが違います。テロメアは染色体の末端の長さ、エピジェネティック・クロックはDNAメチル化のパターンに注目します。それぞれ別の角度から加齢を映すもので、生物学的年齢の測り方全般については生物学的年齢はどう測る?で解説しています。
参考文献
・Horvath S.「DNA methylation age of human tissues and cell types」(2013年、Genome Biology, 14:R115)— 複数の組織で暦年齢をよく推定する多組織型のDNAメチル化時計を示し、エピジェネティック・クロック研究の出発点となった論文。doi:10.1186/gb-2013-14-10-r115. 出典
・Levine ME, et al.「An epigenetic biomarker of aging for lifespan and healthspan」(2018年、Aging (Albany NY), 10(4):573–591)— 暦年齢よりも健康・寿命にかかわる指標とよく結びつく第二世代の時計「DNAm PhenoAge」を報告した論文。doi:10.18632/aging.101414. 出典
※本記事で紹介した研究知見は、いずれも発展途上の研究分野におけるものであり、すべての方に同様の結果を保証するものではありません。
本記事は健康に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の検査・治療の効果を保証するものではありません。研究知見には今後の検証が必要な発展段階のものが含まれます。体の状態には個人差があります。
監修医プロフィール
院長
佐藤 琢紀(サトウ タクノリ)
元国立国際医療研究センター国府台病院救急科診療科長。専門:救急医療、集中治療、ストレスフリー療法、全人的医療。経歴:東北大学医学部卒、順天堂大学大学院卒。命の最前線である救急医療に20年以上従事。「病気になる前に救う」ための戦略的医療を提唱し、2023年より銀座数寄屋橋クリニック院長に着任。救急科専門医、医学博士。
- メッセージ
- こんにちは、院長の佐藤琢紀です。救急医として約20年間、36,000人もの診療に当たってきました。「病気になる前に救いたい」という思いから、いまは予防と若返りの医療へ。専門的な話もできるだけ自分の言葉でやさしくお届けします。様々な情報が溢れる時代だからこそ、「元氣で楽しい人生」を送る“本物”のヒントを皆さまに提供してまいります。 こちらでお願いいたします。
