「炎症」と聞くと、ケガをして赤く腫れた患部や、のどの痛み、発熱などを思い浮かべる方が多いと思います。これらは、体が異物や傷と闘っている証拠であり、本来は私たちを守ってくれる大切な反応です。

ところが近年、こうした目に見える炎症とは別に、自覚のないまま体の中でくすぶり続ける、弱い炎症が老化と深く関わっていることがわかってきました。これを「インフラメイジング(炎症性老化)」と呼びます。

この記事では、インフラメイジングとは何か、なぜ起こるのか、そして“見えない炎症”をためないために何ができるのかを、できるだけわかりやすく解説します。

インフラメイジングとは——「炎症(インフラメーション)」+「加齢(エイジング)」

インフラメイジング(inflammaging)とは、「炎症(inflammation)」と「加齢(aging)」を組み合わせた言葉で、2000年ごろに提唱された比較的新しい概念です。加齢にともなって、体の中で慢性的に続く弱い炎症が、さまざまな加齢にともなう不調の土台になっているという考え方を指します。

ここで、ひとつ大切な整理をしておきます。「慢性的な炎症=老化」ではありません。炎症があること自体が年齢を決めるのではなく、弱い炎症が長く続くことが、結果として老化を後押しする一因になりうる——そうした「炎症が老化につながる」関係として理解するのが正確です。前後関係が逆にならないよう、ここを押さえておくと、この先の話がすっと入ってきます。

研究の世界では、この慢性的な弱い炎症が、加齢にともなう体の変化や生活習慣病との関連で注目され、世界中で活発に研究が進められています。

急性の炎症と、消えない炎症はどう違うのか

そもそも炎症とは、体を守るための防御反応です。ケガをすれば、傷口に免疫の細胞が集まり、入り込もうとする細菌と闘います。風邪をひけば、熱を出してウイルスに対抗します。これらは「急性の炎症」と呼ばれ、役目を終えればきちんと引いていくのが特徴です。痛みや腫れ、発熱といった形ではっきり自覚でき、闘いが終われば体は元に戻ります。命を守るための、見事な仕組みです。

問題になるのは、こうした分かりやすい炎症ではなく、弱い火が消えないまま、長くくすぶり続けるタイプの炎症です。これがインフラメイジングの正体です。

このタイプのやっかいなところは、痛みや赤みのようなはっきりした自覚症状が出にくいことにあります。本人も気づかないうちに、体のあちこちで小さな火種がともり続け、時間をかけてじわじわと組織にダメージを与えていく。いわば「見えない火種」です。だからこそ、知らないうちに進んでしまいやすいのです。

なぜ“見えない炎症”がたまるのか——「老化細胞」という火種

では、この消えない弱い炎症は、どこから生まれるのでしょうか。いくつかの火種が知られています。

老化細胞(老化した細胞)

私たちの細胞は分裂をくり返しながら体を新しく保っています。このとき、染色体の端を守る「テロメア」という部分が、分裂のたびに少しずつ短くなっていきます。そしてテロメアがある一定の長さまで短くなると、細胞はそれ以上分裂できなくなり、活動を止めた状態になります。この限界は「ヘイフリック限界」と呼ばれ、こうしてできた細胞が「老化細胞」です(テロメアについてはこちらの記事で詳しく解説しています)。

やっかいなのは、老化細胞がただ静かにしているわけではない、という点です。老化細胞は、炎症を引き起こす物質を周囲にまき散らし続けることが知られています。この性質は「SASP(細胞老化関連分泌現象)」と呼ばれ、見えない炎症の大きな火種のひとつと考えられています。つまり、テロメアの短縮によって生まれた老化細胞が、炎症の発生源にもなりうるのです。

ミトコンドリアの不調

細胞の中でエネルギーを作る「ミトコンドリア」のはたらきが衰えると、炎症を促す方向にはたらきうると報告されています。

内臓脂肪・腸内環境・慢性的なストレス

お腹まわりの内臓脂肪、乱れた腸内環境、そして終わりのない慢性的なストレス(コルチゾール)なども、弱い炎症をくすぶらせる要因として指摘されています。

そして見逃せないのが、これらが互いを強め合う「ループ」になりやすいことです。炎症が新たな老化細胞を生み、その老化細胞がさらに炎症を強める——こうした悪循環が、ゆっくりと回り続けてしまうのです。

この“見えない炎症”は、テロメアの短縮や、体の本当の年齢=生物学的年齢とも無縁ではありません。炎症をためないことは、体の内側の若さを保つうえで、見過ごせないテーマなのです。

炎症をためない暮らし——今日からできること

“見えない炎症”をためこまないために、日々の暮らしのなかでできることが、研究のなかで報告されています。

食事を整える

野菜や果物、青魚に多く含まれる油(オメガ3)、色の濃い食材などを中心にした食事は、炎症を抑える方向にはたらくと報告されています。一方、糖分や脂っこいものの取りすぎは、炎症を促す方向に傾きやすいと考えられています。

適度な運動を続ける

ウォーキングなど、続けられる範囲の運動は、慢性的な炎症の指標を整える助けになると報告されています。激しすぎる運動はかえって負担になりうるため、「心地よく続けられる」程度がポイントです。

しっかり眠る

睡眠不足は炎症を促す方向にはたらきうると報告されています。体が修復される夜の時間を確保することが、火種をためないことにつながります。

ストレスを減らす・禁煙・口腔ケア

慢性的なストレスや喫煙、歯ぐきの炎症なども“見えない火種”になりえます。ストレスとうまくつき合い、たばこを控え、口の中を清潔に保つことも、地味ですが大切な対策です。

これらに共通するのは、血流をよくして体のすみずみに酸素と栄養を届け、体が本来もっている修復力を保つことです。火種を生まれにくくし、生まれてしまった火を体自身が鎮める——その土台を整えることが、炎症をためない暮らしの基本になると考えられます。

救急医の視点から——「消えない火」というやっかいさ

私は銀座数寄屋橋クリニックの院長を務める前、約17年にわたり国立の医療機関で救急医として勤務し、延べ数万人の重症患者の診療にあたってきました。

救急の現場で向き合う炎症は、激しく燃えさかる火のようなものです。重い感染症や大きなケガと闘うとき、体は全力で炎症を起こし、命を守ろうとします。熱や痛みという形ではっきり現れるからこそ、私たちもすぐに気づき、手を打つことができます。

ところが、インフラメイジングはその正反対です。激しくない代わりに、消えずにくすぶり続ける。 はっきりした症状が出ないぶん、本人も気づかず、対処も後回しになりやすい。救急の「派手な火事」とは違う、この「静かに延焼する火」のやっかいさを、私は医師として強く感じています。だからこそ、症状が出てから慌てるのではなく、火種をためない暮らしを日ごろから心がけることが大切だと考えています。

まとめ

  • インフラメイジング(炎症性老化)とは、加齢にともない体内でくすぶり続ける弱い炎症のことです。
  • 「慢性炎症=老化」ではなく、弱い炎症が続くことが老化を後押しする一因になりうる、という関係で理解するのが正確です。
  • 老化細胞(SASP)・ミトコンドリアの不調・内臓脂肪・慢性的なストレスなどが火種となり、互いを強め合うループをつくると考えられています。
  • 食事・運動・睡眠・ストレス対策・禁煙などが、炎症をためない方向にはたらくと研究で報告されています。

もっとも、こうした暮らしの工夫が大切だとわかっていても、痛みも自覚もない“見えない火種”を相手に、すべてを毎日続けていくのは、想像以上に難しいものです。だからこそ医学や科学は、「炎症をためない体の土台を、どうすれば無理なく支えられるか」を模索し続けています。エネルギー工場であるミトコンドリアの調子を整える、体自身がもつ炎症を鎮めるはたらきを後押しする、ストレス(コルチゾール)と血流という根っこにはたらきかける——当院が取り組むストレスフリー療法も、そうした視点に立つアプローチの一つです。ストレスと血流に着目した考え方はストレスと老化の科学のページで詳しくご紹介しています。当院の取り組みはメニュー・料金ページでご案内しています。

“見えない炎症”に目を向けることは、体の内側から若々しさを保つための、確かな一歩になるはずです。

よくある質問

Q. 慢性的な炎症があると、すぐに病気になるのですか?

A. 慢性炎症があること自体がただちに病気を意味するわけではありません。ただ、弱い炎症が長く続くことは、加齢にともなう体の変化や生活習慣病との関連が指摘されています。だからこそ、火種をためない暮らしを日ごろから心がけることが大切だと考えられています。

Q. 自分の体に“見えない炎症”があるか、わかりますか?

A. はっきりした自覚症状が出にくいのがこのタイプの炎症の特徴です。気になる場合は、医療機関で体の状態を客観的に確認するという方法があります。感覚だけに頼らず、数値で体の状態を知ることは、対策の出発点になります。

Q. 炎症をためないために、まず何から始めればよいですか?

A. 特別なことより、まずは土台を整えることが基本です。野菜や青魚を取り入れた食事、続けられる範囲の運動、十分な睡眠、そしてストレスとうまくつき合うこと。どれも地味ですが、積み重ねが“見えない火種”を生まれにくくします。

本記事は健康に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の治療効果を保証するものではありません。研究知見には今後の検証が必要な発展段階のものが含まれます。体の状態には個人差があります。

監修医プロフィール

院長

佐藤 琢紀(サトウ タクノリ)

元・国立国際医療研究センター国府台病院 救急科診療科長。専門: 救急医療、ストレスフリー療法、予防戦略。実績臨床実績: 18年間で約36,000人の救急診療に従事。経歴: 東北大学医学部卒。命の最前線である救急医療に長年従事。「病気になる前に救う」ための戦略的医療を提唱し、2023年より銀座数寄屋橋クリニックにて診療を行う。

メッセージ
救急医療の現場責任者として多くの死生観に触れてきた経験から、皆さまが「元氣で楽しい人生」を歩むための戦略的な医療を提案いたします。