「以前より疲れやすくなった」「ペットボトルのふたが開けにくい」「歩くのが少し遅くなった気がする」——年齢を重ねると、こうした変化を感じることがあります。その背景の一つに、筋肉の”静かな目減り”があります。

加齢とともに骨格筋の量と力が落ちていく状態を「サルコペニア」と呼びます。もともとはギリシャ語の「筋肉(サルコ)」と「減少(ペニア)」を組み合わせた言葉で、加齢研究や高齢者医療で注目されているテーマです。

この記事では、サルコペニアとはそもそも何なのか、なぜ起こるのか、そしてどう見分け、どう土台をつくればよいのかを、できるだけわかりやすく解説します。

サルコペニアとは——「量」と「力」と「動き」の低下

サルコペニアは、単に「筋肉が細くなること」ではありません。近年の専門家の合意では、筋肉のの減少に加えて、筋の低下、そして歩く速さなどの身体機能の低下をあわせて捉える考え方が示されています[1]。とくに、握力などで測る「筋力の低下」が、早い段階の手がかりとして重視されています。

私たちの筋肉量は、20〜30代あたりをピークに、その後はゆるやかに減っていきます。とくに何もしなければ、加齢とともに減少のペースは上がっていくと考えられています。筋肉は体を動かすだけでなく、姿勢を支え、転倒を防ぎ、糖や熱の代謝にも関わる大切な組織です。その”目減り”は、見た目の問題にとどまらず、生活の質や自立度にも関わってきます。

なぜ加齢で筋肉は減るのか

筋肉は、たえず「合成(つくる)」と「分解(こわす)」を繰り返しながら入れ替わっています。若い頃はこのバランスが保たれていますが、加齢とともに、つくる力が分解に追いつきにくくなっていきます。その背景には、いくつかの要因が重なっています。

一つは、ホルモンの変化です。筋肉の維持に関わる成長ホルモンや性ホルモンは、加齢とともに減っていきます。この背景については加齢で減る成長ホルモンでくわしく解説しています。

もう一つは、活動量の低下です。使わない筋肉は減っていきます。とくに、病気やけがで数日間動かないだけでも、筋肉は驚くほど早く落ちてしまいます。

さらに、栄養の不足、とりわけたんぱく質の摂取不足も関わります。加えて、筋肉のなかでエネルギーをつくるミトコンドリアのはたらきの変化や、加齢にともなうくすぶった炎症も、筋肉が減りやすい土台に関わると指摘されています。

サルコペニアと「フレイル」——見過ごしたくないつながり

サルコペニアと近い言葉に「フレイル」があります。フレイルは、加齢によって心身が弱り、健康と要介護の”あいだ”にある状態を指す、より広い概念です。

サルコペニアは、このフレイルの中心にある身体的な要素の一つと位置づけられています。筋肉が減る→動きにくくなる→さらに活動量が減る→もっと筋肉が減る、という悪循環に入りやすく、これを放っておくと、転倒や骨折、自立度の低下につながりかねません。逆にいえば、早い段階で気づき、土台を整えれば、この悪循環にブレーキをかけられる可能性があるということです。

サルコペニアと、どう向き合うか——二つの土台

サルコペニアの土台づくりは、実はとてもシンプルです。かぎを握るのは「運動」と「たんぱく質」の二つです。

第一の土台は、運動、とりわけ筋肉に負荷をかけるレジスタンス運動です。スクワットや、いすからの立ち上がり、軽いおもりを使った運動などで、筋肉に「使われている」という刺激を与えることが、年齢を重ねても筋肉を保つうえでもっとも確かな方法とされています。「歳だから」と動かさないことこそ、筋肉が減る一番の近道です。

第二の土台は、じゅうぶんなたんぱく質です。筋肉の材料になるたんぱく質を、毎食こまめにとることが大切です。高齢になるほど、若い頃と同じ量では足りなくなる傾向も指摘されています。ただし、腎臓などに持病がある方は適量が異なるため、自己判断で極端に増やさず、医師に相談してください。特定のプロテイン製品やサプリメントに頼る前に、まずは日々の食事の土台を整えることが基本です。

この二つに、質のよい睡眠と、くすぶる炎症をためこまない生活が加われば、筋肉の”目減り”のペースをゆるやかにする土台が整っていきます。

「動けること」を守る——救急医の視点から

私は銀座数寄屋橋クリニックの院長を務める前、約20年にわたり国立の医療機関で救急医として勤務し、延べ約36,000人の患者さんの診療にあたってきました。

救急の現場では、ご高齢の方が転んで骨折し、そこから寝たきりに近づいていく——その入り口には、ほぼ例外なくサルコペニアがありました。振り返れば、こうしたケースのほとんどすべてで、背景に筋肉の目減りがあったのです。筋肉が落ちて足元がふらつき、転倒し、動けなくなることでさらに筋肉が落ちる。この連鎖を、数えきれないほど見てきました。

だからこそ私は、「動けること」を軽く見ません。筋肉は、命と生活の質を守る”土台”そのものです。そしてこの土台は、何歳からでも手をかける価値があります。年齢を理由に諦めるのではなく、今日から少しずつ体を動かし、しっかり食べる——その積み重ねが、将来の自立を支えるのだと、現場から確信しています。

まとめ

  • サルコペニアは、加齢にともなって骨格筋の量・力・機能が低下する状態です。筋肉量の減少だけでなく、握力などで測る筋力の低下が早い手がかりとして重視されています。
  • 背景には、ホルモンの変化、活動量の低下、たんぱく質不足、ミトコンドリアの変化やくすぶる炎症などが重なります。放っておくと転倒・骨折・自立度低下につながる「フレイル」の中心的な要素です。
  • 土台づくりのかぎは「運動(とくにレジスタンス運動)」と「じゅうぶんなたんぱく質」。質のよい睡眠と炎症をためこまない生活を加えれば、筋肉の目減りをゆるやかにする土台が整います。

サルコペニアは、静かに進む加齢の一面です。けれども、筋肉は何歳からでも応えてくれる組織でもあります。動かし、食べ、休む——このあたりまえの土台こそが、筋肉の若さと”動けること”を守る近道だと考えられます。

当院が行うストレスフリー療法も、穏やかな温熱刺激を通じて末梢の血流を高め、体の土台を支えることを目指す取り組みです(研究知見にもとづく予備的なもので、はたらき方には個人差があります)。その科学的な考え方についてはストレスと老化の科学で解説しています。

細胞レベルの若々しさと体の土台づくりにご関心のある方は、施術の流れや費用をまとめた当院のメニュー・料金ページもあわせてご覧ください。


よくある質問

Q. サルコペニアは何歳ごろから始まりますか?

A. 筋肉量は20〜30代をピークに、その後ゆるやかに減っていくと考えられています。何もしなければ加齢とともに減少のペースは上がりますが、進み方には個人差が大きく、運動習慣や栄養状態が大きく影響します。年齢だけで決まるものではありません。

Q. 自分がサルコペニアかどうか、家庭で気づく手がかりはありますか?

A. ペットボトルのふたが開けにくい、いすから片手をつかずに立ち上がりにくい、歩く速さが遅くなった、片足立ちがふらつく——こうした変化は一つの手がかりになります。気になる場合は自己判断せず、医療機関で握力や歩行速度などの評価を受けることをおすすめします。

Q. 高齢でも筋肉は増やせますか?

A. 適切な運動と栄養によって、高齢の方でも筋肉の維持・改善が期待できると考えられています。「歳だから」と動かさないことこそ筋肉が減る要因です。ただし持病がある場合は、運動やたんぱく質の適量が異なるため、始める前に医師に相談してください。

参考文献

  • Cruz-Jentoft AJ, Bahat G, Bauer J, et al.(EWGSOP2)「Sarcopenia: revised European consensus on definition and diagnosis」(2019年、Age and Ageing, 48(1):16–31)— サルコペニアを筋量の減少に加えて筋力低下・身体機能低下から捉える改訂版の合意。とくに筋力低下を早期の指標として重視する枠組みを示した。doi:10.1093/ageing/afy169. 出典

※上記の研究知見は主に高齢者を対象とした枠組みであり、すべての方に同様の経過を保証するものではありません。筋肉の減り方や改善の程度には個人差があります。


本記事は健康に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の検査・治療・製品の効果を保証するものではありません。運動・栄養の始め方や持病がある場合は医療機関にご相談ください。体の状態には個人差があります。

監修医プロフィール

院長

佐藤 琢紀(サトウ タクノリ)

元国立国際医療研究センター国府台病院救急科診療科長。専門:救急医療、集中治療、ストレスフリー療法、全人的医療。経歴:東北大学医学部卒、順天堂大学大学院卒。命の最前線である救急医療に20年以上従事。「病気になる前に救う」ための戦略的医療を提唱し、2023年より銀座数寄屋橋クリニック院長に着任。救急科専門医、医学博士。

メッセージ
こんにちは、院長の佐藤琢紀です。救急医として約20年間、36,000人もの診療に当たってきました。「病気になる前に救いたい」という思いから、いまは予防と若返りの医療へ。専門的な話もできるだけ自分の言葉でやさしくお届けします。様々な情報が溢れる時代だからこそ、「元氣で楽しい人生」を送る“本物”のヒントを皆さまに提供してまいります。 こちらでお願いいたします。