エグゼクティブのための「攻めの健康管理」入門——多忙な人ほど“守り”だけでは足りない理由
組織の判断を背負い、分刻みのスケジュールをこなす——責任ある立場の方ほど、自分の体だけはいつも「後回し」になりがちです。会社の数字には目を光らせていても、自分の体の状態は、年に一度の健康診断の結果でしか把握していない、という方は少なくありません。
ところが、健康診断で「異常なし」と言われても、「疲れが抜けない」「夜よく眠れない」「頭がぼんやりする」といった不調を抱えている——そんな声をよく耳にします。検査の数値は問題ないのに、本来のパフォーマンスが出ていない。この“すき間”をどう埋めるかが、多忙なエグゼクティブにとっての健康管理のテーマです。
この記事では、従来の「守りの健康管理」と、近年注目される「攻めの健康管理」の違い、そして忙しい毎日のなかでも実践できる土台づくりを、できるだけわかりやすく解説します。
目次
「守りの健康管理」と「攻めの健康管理」——何が違うのか
まず整理しておきたいのが、健康管理には大きく二つの考え方がある、という点です。
ひとつは「守りの健康管理」。健康診断や人間ドックがその代表で、すでに起きている病気や異常を早く見つけ、手を打つことを目的とします。これは健康を守るうえで欠かせない、大切な土台です。決して軽んじてよいものではありません。
ただ、守りの健康管理には、ひとつの性質があります。それは、基本的に「病気かどうか」を見るものだ、という点です。検査で明らかな異常が見つからなければ「異常なし」となります。けれども、はっきりした病気ではないものの、本来の調子から少しずつずれている——いわば「健康」と「病気」のあいだにあるグレーな状態は、すくい上げにくいのです。この領域は、東洋医学では古くから「未病(みびょう)」と呼ばれてきました。
ここで登場するのが、もうひとつの考え方、「攻めの健康管理」です。これは、病気を見つけることにとどまらず、不調になる前に体の状態を整え、本来のコンディションを保つことを目指す考え方です。守りが「マイナスをゼロに戻す」発想だとすれば、攻めは「ゼロをよりよい状態に近づけ、それを保つ」発想だと言えます。
大切なのは、攻めは守りに取って代わるものではない、ということです。健康診断という守りの土台があってこそ、その先の攻めが意味を持ちます。両方をあわせ持つことが、これからの健康管理の形だと考えられます。
なぜ多忙なエグゼクティブほどリスクを抱えやすいのか
責任の重い立場にある方は、健康面でいくつかの負荷を抱えやすい環境に置かれています。
第一に、慢性的なストレスです。重い判断、途切れない緊張、人間関係——こうした負荷が続くと、ストレスホルモンである「コルチゾール」が高い状態のまま下がりきらなくなることがあると報告されています。コルチゾールが慢性的に高い状態は、睡眠・集中力・代謝といった、まさに日々のパフォーマンスを支える土台に影響しうると指摘されています(詳しくはコルチゾールについての記事で解説しています)。
第二に、回復の時間が削られやすいことです。睡眠、休息、運動——本来なら体を立て直すための時間が、多忙さのなかで真っ先に削られてしまいます。
そして第三に、自分の不調を後回しにしがちだということです。多少の疲れや不調は「気合い」で乗り切ってしまえる方ほど、体からの小さなサインを見過ごし、対処が遅れやすい傾向があります。
つまり、立場が上がるほど、体に負荷がかかる一方で、体をケアする時間と意識は削られていく。この構造こそが、多忙なエグゼクティブが健康リスクを抱えやすい背景だと言えます。
「攻めの健康管理」の核心——体の状態を“数値”で知る
では、攻めの健康管理は、具体的に何から始めるのでしょうか。その出発点は、体の状態を客観的な数値で把握することだと考えられます。
そのひとつの切り口が、近年注目される「生物学的年齢」という考え方です。これは、生まれてからの年数を数える「暦の年齢」とは別に、体が実際にどれくらい老化しているかを、細胞や遺伝子レベルの指標から推定するものです。同じ50歳でも、生物学的年齢が若い人もいれば、進んでいる人もいる——そうした「体の本当の年齢」を見える化しようという試みです(くわしくは老化時計についての記事で解説しています)。
当院でも、EPICアレイと呼ばれる手法を用いて、生物学的年齢を実際に測定してきました。感覚だけに頼らず、自分の体がいまどんな状態にあるのかを数値で知ることは、攻めの健康管理の第一歩になります。現在地が分かってはじめて、どこを整えればよいかが見えてくるからです。
経営の世界で、勘だけに頼らず、データを見て手を打つのと同じように、自分の体についても「見える化」してから対策を考える——これが攻めの健康管理の核心です。
今日からできる「攻めの健康管理」の土台
数値で現在地を知ったうえで、日々の暮らしのなかで整えられる土台を挙げます。いずれも研究のなかで、その大切さが報告されてきたものです。
回復を「予定」に入れる
多忙な方ほど、睡眠や休息を「余った時間にするもの」と考えがちです。しかし、回復は仕事と同じく、あらかじめスケジュールに組み込む対象だと考え方を変えることが、攻めの健康管理では重要になります。
ストレスのオフスイッチを持つ
高ぶった神経を鎮める時間を、意識して一日のなかに置くことが役立つと考えられています。ほんの数分、深くゆっくり呼吸する、自然のある場所で過ごす——小さな習慣でかまいません。
体を動かす・食事を整える
続けられる範囲の適度な運動と、栄養バランスの取れた食事は、体の土台を支える基本です。激しすぎる運動はかえって負担になりうるため、「心地よく続けられる」程度がポイントです。
これらに共通するのは、体を「闘うモード(交感神経優位)」から「休むモード(副交感神経優位)」へ切り替え、血流をよくして体のすみずみに酸素と栄養を届けることです。自律神経と血流という土台を整えることが、攻めの健康管理を支える共通の鍵になると考えられます。
救急医の視点から——「倒れてから」では遅い
私は銀座数寄屋橋クリニックの院長を務める前、約17年にわたり国立の医療機関で救急医として勤務し、延べ数万人の重症患者の診療にあたってきました。
救急医療は、いわば「倒れてから」の医療です。私が向き合ってきたのは、体が限界を超えてしまったあとの現場でした。そして、そうして運ばれてくる方のなかには、責任ある立場で走り続け、不調のサインを「気合い」で押し切ってきた方が少なくありませんでした。倒れてはじめて、体が長いあいだ無理を重ねていたことに気づく——そうした場面を、私は何度も見てきました。
だからこそ私は、「倒れてから」の対処に頼りきるのではなく、その手前で体の状態を数値で把握し、整えておくことの大切さを、強く感じています。攻めの健康管理は、救急医療のちょうど対極にある発想です。緊急事態になってから動くのではなく、緊急事態を遠ざけるために、日ごろから手を打っておく。多忙で責任の重い方にこそ、この視点を持っていただきたいと考えています。
まとめ
- 健康管理には、病気を早く見つける「守り」(健康診断・人間ドック)と、不調になる前に体を整える「攻め」の二つの考え方があり、攻めは守りに取って代わるものではなく、その先にあるものです。
- 多忙なエグゼクティブほど、慢性的なストレス(コルチゾール)と回復不足を抱えやすく、しかも不調を後回しにしがちです。
- 攻めの健康管理の出発点は、生物学的年齢などの客観的な数値で体の現在地を知ることだと考えられます。
- 回復をスケジュールに入れ、ストレスのオフスイッチを持ち、運動と食事を整える——自律神経と血流という土台を整えることが、その共通の鍵になります。
もっとも、こうした土台が大切だと頭ではわかっていても、責任と緊張の途切れない毎日のなかでそのすべてを保ち続けるのは、想像以上に難しいものです。とくに、立場が上がるほどその難しさは増していきます。だからこそ医学や科学は、「その土台づくりを、どうすれば無理なく支えられるか」を模索し続けています。ストレス(コルチゾール)と血流という体の根っこにはたらきかける——当院が取り組むストレスフリー療法も、そうした視点に立つアプローチの一つです。ストレスと血流に着目した考え方はストレスと老化の科学のページで詳しくご紹介しています。
「攻めの健康管理」は、特別な人だけのものではありません。自分の体の現在地を知り、土台を整えることは、明日のパフォーマンスと、その先の長い活躍を支える投資になるはずです。当院の取り組みはメニュー・料金ページでご案内しています。
よくある質問
Q. 健康診断を毎年受けていれば、それで十分ではないですか?
A. 健康診断は、病気や異常を早く見つけるための大切な土台であり、欠かせないものです。一方で、はっきりした病気ではないものの本来の調子からずれている「グレーな状態」は、すくい上げにくいという性質があります。攻めの健康管理は、その健診を土台としたうえで、不調になる前にコンディションを整えることを目指す考え方です。両方をあわせ持つことがおすすめです。
Q. 忙しくて、健康のための時間がほとんど取れません。
A. だからこそ、回復を「余った時間にするもの」ではなく、仕事と同じくあらかじめ予定に組み込む対象だと考え方を変えることが役立ちます。睡眠時間の確保、数分の深い呼吸、続けられる範囲の運動——小さな習慣の積み重ねでかまいません。まずは自分の体の現在地を数値で知ることから始めるのも一つの方法です。
Q. 「生物学的年齢」は、どうすれば分かるのですか?
A. 細胞や遺伝子レベルの指標から、体の老化の進み具合を推定する手法が研究・実用化されつつあります。当院でもEPICアレイと呼ばれる手法で測定を行ってきました。感覚だけに頼らず、体の状態を客観的な数値で把握することが、対策の出発点になります。
本記事は健康に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の治療効果を保証するものではありません。研究知見には今後の検証が必要な発展段階のものが含まれます。体の状態には個人差があります。
監修医プロフィール
院長
佐藤 琢紀(サトウ タクノリ)
元・国立国際医療研究センター国府台病院 救急科診療科長。専門: 救急医療、ストレスフリー療法、予防戦略。実績臨床実績: 18年間で約36,000人の救急診療に従事。経歴: 東北大学医学部卒。命の最前線である救急医療に長年従事。「病気になる前に救う」ための戦略的医療を提唱し、2023年より銀座数寄屋橋クリニックにて診療を行う。
- メッセージ
- 救急医療の現場責任者として多くの死生観に触れてきた経験から、皆さまが「元氣で楽しい人生」を歩むための戦略的な医療を提案いたします。
