「手足がいつも冷たい」「平熱が35度台で、なかなか上がらない」「体がだるく、疲れやすい」——こうした悩みを、「もともとの体質だから」とあきらめている方は少なくありません。

けれども、低体温や冷えは、ただの体質では片づけられないことがあります。その背景には、血流や自律神経、筋肉量、代謝といった、体の土台にかかわる変化が隠れていることがあるのです。この記事では、低体温が起こる仕組みと、平熱を底上げするためにできることを、わかりやすく解説します。

そもそも「低体温」とは——平熱の目安と体温のしくみ

体温には個人差があり、「何度から低体温」と一律には線を引けません。ただ、起床時に脇の下で測って36.5度前後が、ひとつの目安として挙げられることがあります。これを下回る状態が続く場合は、体の土台を見直すきっかけになるかもしれません。

体温は、熱を生み出すはたらき(熱産生)と、その熱を全身に運び逃がすはたらき(血流による分配・放散)のバランスで決まります。熱を生むのは主に筋肉・代謝・細胞内のミトコンドリアで、生まれた熱は血液に乗って全身へ届けられます。つまり体温は、代謝と血流の状態を映す“鏡”なのです。実際、米国の大規模データを19世紀から現代まで比較した研究では、成人の平熱が長い年月をかけて少しずつ下がってきたと報告されており、体温が暮らしや活動量と無縁でないことをうかがわせます。

体表温と深部体温——同じ「体温」でも測る場所で値が違う

ひとくちに「体温」といっても、測る場所で意味が異なります。脇の下や額で測るのは体の表面に近い「体表温」、内臓や血液など中心部の温度が「深部体温(しんぶたいおん)」です。深部体温は中枢を一定に保つため、体表温より高く、外気温に左右されにくい安定した値に保たれています。

問題は、両者がいつも同じように動くわけではないことです。手足が冷えていても深部体温は保たれていることがあり、体表の一点を測っただけでは内側の熱や血流の変化を捉えきれません。つまり体表温と深部体温のあいだには、しばしば「解離(かいり)」——値のギャップが生じます。

そこで当院では、「COREセンサー」と呼ばれる深部体温モニタリング機器を用いて、深部体温の状態を把握しています。胸や腕に装着するだけの非侵襲(針を刺さない)ウェアラブルで、皮膚温と体表から逃げる熱の流れ(熱流束)から深部体温を連続的に推定します。従来は体の内部を直接測る必要がありましたが、こうした機器により、日常に近いかたちで深部体温の変化を追えるようになりました。体表温と深部体温の両面から「見える化」することは、冷えや低体温の背景を理解する手がかりになると考えています。

なぜ平熱が上がらないのか——4つの背景

低体温や冷えの背景には、いくつかの要因が重なっていることが多いと考えられます。

1. 血流・末梢循環の低下
熱は血液に乗って運ばれます。そのため、体のすみずみ、とくに手足の先まで血液が十分に届かないと、その部分は冷たくなります。手足の冷えは、末梢の血流が落ちているサインのひとつと考えられます。毛細血管のはたらきが衰えることも、冷えと関わると指摘されています。

2. 自律神経の乱れ
血管の太さは、自律神経によって調節されています。慢性的なストレスなどで交感神経が優位な状態が続くと、末梢の血管が縮こまりやすくなり、手足に血液が届きにくくなることがあります。「ストレスが多いと手足が冷える」と感じる方がいるのは、このためです(自律神経とストレスの関係はコルチゾールについての記事で解説しています)。

3. 筋肉量の不足
筋肉は、体のなかで最も多くの熱を生み出す“発熱装置”です。運動不足や加齢によって筋肉量が減ると、生み出される熱そのものが少なくなり、平熱が上がりにくくなると考えられています。女性に冷えを感じる方が多い背景のひとつにも、筋肉量の違いがあると指摘されています。

4. 代謝・ミトコンドリアの低下
細胞の中でエネルギーを作るミトコンドリアのはたらきが衰えると、熱を生み出す力も落ちやすくなります。エネルギー産生と熱産生は、表裏一体の関係にあるのです。

これらは互いに関わり合っています。血流が落ちれば細胞に酸素や栄養が届きにくくなり、代謝も下がる。代謝が下がれば熱が生まれにくくなる——こうしてじわじわと平熱が下がっていくと考えられます。

低体温・冷えがもたらしうる不調

体温は、代謝や血流といった体の土台を映すものです。そのため、低体温や冷えが続くと、さまざまな不調と関わることがあると指摘されています。

たとえば、全身の細胞へ酸素や栄養が届きにくくなることで、だるさや疲れやすさ、寝つきの悪さ、気分の落ち込みなどとの関連が指摘されています。また、体温は免疫や代謝のはたらきとも無縁ではないと考えられており、体の土台を整えるうえで見過ごせないテーマです。

さらに、血流の低下は、体内でくすぶる弱い炎症(慢性炎症)とも関わりうると考えられています。冷えや低体温は、単独の悩みというより、体の土台のゆらぎを知らせるサインとして受け止めるのがよいでしょう。

平熱を底上げする——今日からできること

平熱を底上げするために、日々の暮らしのなかでできることを整理します。いずれも、熱を生む力を高め、生まれた熱を全身に届けることにつながります。

体を動かし、筋肉を保つ
ウォーキングやスクワットなど、続けられる範囲の運動は、熱を生み出す筋肉を保ち、血流を促す助けになります。激しすぎる必要はなく、「心地よく続けられる」程度が大切です。

体を温める・湯船につかる
温かい食事や飲み物を取り入れ、シャワーだけで済ませず湯船にゆっくりつかることは、血流を促し、体を芯から温める助けになると考えられています。

しっかり眠る・ストレスとつき合う
睡眠不足や慢性的なストレスは、自律神経を乱し、末梢の血流を妨げる方向にはたらきえます。十分な睡眠をとり、高ぶった神経を鎮める時間を持つことが、冷えの土台にはたらきかけます。

これらに共通するのは、血流をよくして熱を全身に届け、熱を生む力を保つことです。体を温める一時的な工夫だけでなく、熱を生み・運ぶという体の土台そのものを整えることが、平熱の底上げにつながると考えられます。

救急医の視点から——体温という“見える数値”を軽んじない

私は銀座数寄屋橋クリニックの院長を務める前、約17年にわたり国立の医療機関で救急医として勤務し、延べ数万人の重症患者の診療にあたってきました。

救急の現場では、運ばれてきた方の体温を必ず測ります。体温は、脈拍や血圧と並ぶ「バイタルサイン」だからです。命に関わるほど体温が下がる「低体温症」は、一刻を争う緊急事態として扱われます。

もちろん、日々の暮らしのなかで感じる「冷え」や「低体温」は、こうした緊急事態とは別のものです。けれども、体温が体の状態を映す手がかりであることは、救急の現場でも、日常でも変わりません。体温は、特別な機器がなくても、誰でも手軽に測れる客観的な数値です。「なんとなく冷える」で済ませず、自分の平熱を知り、その変化に目を向けること——それは、感覚だけに頼らず体の状態を見える化する、確かな一歩だと、私は考えています。

まとめ

  • 体温は、熱を生み出すはたらき(筋肉・代謝・ミトコンドリア)と、熱を運ぶ血流のバランスで決まる、代謝と血流の“鏡”です。
  • 同じ「体温」でも、脇などで測る体表温と中心部の深部体温は値が異なり、両者に「解離」が生じることがあります。表面と内側の両面から捉えることに意味があります。
  • 平熱が上がらない背景には、血流・末梢循環/自律神経/筋肉量/代謝の要因が重なり合っています。
  • 運動で筋肉を保ち、体を温め、しっかり眠り、ストレスとつき合う——血流をよくして熱を生み・運ぶ土台を整えることが、平熱の底上げにつながります。

もっとも、こうした生活の工夫が大切だとわかっていても、それを毎日続けることは想像以上に難しく、長年の冷えや低体温が一朝一夕で変わるものでもありません。だからこそ医学や科学は、「その土台づくりを、どうすれば無理なく支えられるか」を模索し続けています。血流とストレス(自律神経)という体の根っこにはたらきかける——当院が取り組むストレスフリー療法も、そうした視点に立つアプローチの一つです。血流と老化・体調の関わりについてはストレスと老化の科学のページで詳しくご紹介しています。

冷えや低体温に目を向けることは、体の土台を整え、内側から元気を取り戻す確かな一歩になるはずです。当院の取り組みはメニュー・料金ページでご案内しています。


よくある質問

Q. 平熱は何度くらいが目安ですか?
A. 個人差があり一律には線を引けませんが、ひとつの目安として、起床時に脇の下〇36.5度前後とされることがあります。大切なのは数字そのものより、自分の平熱を知り、その変化に気づけるようにしておくことです。

Q. 手足だけが冷たいのですが、これも低体温ですか?
A. 手足の冷えは、体の中心の深部体温が保たれていても起こることがあり、多くは末梢の血流が落ちているサインです。血管の調節には自律神経が関わるため、ストレスや生活リズムの乱れが背景にあることもあります。

Q. 脇で測る体温と、体の中の温度は違うのですか?
A. はい。脇や額で測る「体表温」に対し、内臓や血液など中心部の温度を「深部体温」と呼び、深部体温のほうが高く安定しています。両者には差(解離)が生じることがあり、手足が冷えていても深部体温は保たれていることもあります。当院では深部体温をモニタリングする機器(COREセンサー)も用いて、表面と内側の両面から状態を把握しています。

Q. 平熱はどれくらいで上がってきますか?
A. 個人差が大きく、すぐに変わるものではありません。運動による筋肉の維持、体を温める習慣、十分な睡眠、ストレス対策を、無理のない範囲で続けることが基本です。焼らず、少しずつ整えていきましょう。


本記事は健康に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の治療効果を保証するものではありません。研究知見には今後の検証が必要な発展段階のものが含まれます。体の状態には個人差があります。

監修医プロフィール

院長

佐藤 琢紀(サトウ タクノリ)

元国立国際医療研究センター国府台病院救急科診療科長。専門:救急医療、集中治療、ストレスフリー療法、全人的医療。経歴:東北大学医学部卒、順天堂大学大学院卒。命の最前線である救急医療に20年以上従事。「病気になる前に救う」ための戦略的医療を提唱し、2023年より銀座数寄屋橋クリニック院長に着任。救急科専門医、医学博士。

メッセージ
こんにちは、院長の佐藤琢紀です。救急医として約20年間、36,000人もの診療に当たってきました。「病気になる前に救いたい」という思いから、いまは予防と若返りの医療へ。専門的な話もできるだけ自分の言葉でやさしくお届けします。様々な情報が溢れる時代だからこそ、「元氣で楽しい人生」を送る“本物”のヒントを皆さまに提供してまいります。 こちらでお願いいたします。