頭がぼんやりする「ブレインフォグ」とは——その原因と背景をやさしく解説
「頭にもやがかかったようで、すっきりしない」「話している途中で言葉が出てこない」「以前なら簡単だったことに、なぜか頭が回らない」——こうした状態は、近年「ブレインフォグ(brain fog/脳の霧)」と呼ばれるようになりました。
このもどかしい感覚を、「年齢のせい」「気の持ちよう」と片づけてしまう方も少なくありません。けれども、ブレインフォグには、体の状態にかかわる背景が隠れていることがあります。この記事では、ブレインフォグとはそもそも何なのか、なぜ起こるのか、そしてどんなときに医療機関に相談すべきかを、できるだけわかりやすく整理します。
ブレインフォグとは——「病名」ではなく、状態を表す言葉
はじめに大切な点をお伝えします。「ブレインフォグ」は、それ自体が病名(正式な診断名)ではありません。頭がぼんやりして、思考や集中、言葉の出方がふだんより鈍く感じられる——そうした「状態」をまとめて言い表す、いわば俗称に近い言葉です。
だからこそ、ブレインフォグには「これが原因」という単一の答えがあるわけではありません。同じ「もやがかかった感じ」でも、その背景は人によってさまざまです。逆に言えば、ブレインフォグと感じたときは、「何が背景にあるのか」を一つずつ確かめていく姿勢が大切になります。
なぜ起こるのか——重なりあう背景
ブレインフォグの背景として、これまで指摘されてきた要因を整理します。多くの場合、これらが一つではなく、いくつか重なっていると考えられます。
- 睡眠の質の低下:脳は眠っている間に情報を整理し、休息をとります。眠りが浅い・足りないと、日中の思考が冴えにくくなります(寝ても疲れが取れないもあわせてご覧ください)
- 慢性的なストレス:ストレスホルモンであるコルチゾールが高い状態が続くと、記憶や思考をつかさどる脳の領域の働きが妨げられやすいことが、複数の研究をまとめたレビューで指摘されています[1](コルチゾールの記事でも解説しています)
- 脳への血流・酸素の供給の低下:脳は酸素とエネルギーを大量に必要とする臓器で、その供給は血流が担っています。巡りが滞ると、頭の冴えにも影響しうると考えられています(脳の血流と集中の関係でくわしく触れています)
- 体の中のくすぶった炎症:慢性的な炎症が、脳の働きに影響しうることが指摘されています(慢性炎症と老化もご参照ください)
- ホルモンの変化:更年期など、ホルモンバランスが大きく変わる時期に、頭のもやを感じやすくなることがあります
- 感染症のあと:ウイルス感染などのあとに、ブレインフォグに似た状態(集中力や記憶の低下)が続くことがあると報告されています。新型コロナウイルス感染症の後遺症をめぐる大規模なレビューでも、認知機能の低下(ブレインフォグ)が主要な症状の一つとして挙げられています[2]
- 栄養・血糖・水分の乱れ:血糖の乱高下や、鉄などの不足、水分不足も、頭の働きに影響しうると考えられています
このように、ブレインフォグの背景は多岐にわたります。だからこそ、「ブレインフォグ」という一語で終わらせず、自分の場合は何が関わっていそうかを見ていくことが、出発点になります。
見逃したくない背景——受診を考える目安
多くのブレインフォグは、生活習慣やストレス、疲労と関わっています。けれども、なかには医療機関できちんと調べたほうがよい背景が隠れていることもあります。
たとえば、甲状腺の病気、貧血、気持ちの落ち込み(うつ)、睡眠時無呼吸などは、頭のぼんやり感をともなうことが知られています。また、感染症のあとに強い倦怠感や思考の鈍さが長く続く場合も、自己判断せず相談することが大切です。
次のようなときは、一度、医療機関に相談することをおすすめします。
- もやがかかった状態が長く続く、または日ごとに強くなっている
- 強い倦怠感、気分の落ち込み、体重の変化などをともなう
- 言葉が出にくい、物忘れが目立つなど、日常生活に支障が出ている
「ただのブレインフォグ」と決めつけず、必要なときにきちんと調べる——この姿勢が、安心につながります。
ブレインフォグと向き合う——土台を整える視点
明らかな病気が背景に見当たらない場合、ブレインフォグと向き合ううえで土台になるのは、脳が良い状態で働くための条件を整えることです。特別な近道があるわけではありませんが、次のような土台づくりが、研究のなかで語られています。
- 睡眠を整える:脳が情報を整理し、休む時間を確保する
- 体を動かして血流を促す:全身の巡りは、脳への酸素供給を支えます
- ストレスとのつき合い方を見直す:高ぶった神経を鎮める時間を、意識してもつ
- 血糖を急上昇させない食べ方・水分補給を心がける
いずれも、脳に酸素とエネルギーを届け、神経を高ぶらせすぎないための、ごく当たり前の土台です。
救急医の視点から——「認知」は脳のコンディションに支えられている
私は銀座数寄屋橋クリニックの院長を務める前、約20年にわたり国立の医療機関で救急医として勤務し、延べ約36,000人の救急・重症患者の診療にあたってきました。
救急の現場では、患者さんの意識や受け答えの様子が、ほんの少しの体の変化で大きく揺らぐ場面に、何度も立ち会ってきました。酸素、血流、血糖、体の巡り——こうした土台がわずかに乱れるだけで、頭の働きは目に見えて変わります。それは、「考える」「わかる」という一見あたりまえの営みが、実は脳という臓器の物理的なコンディションに、しっかりと支えられていることの表れです。
もちろん、日々感じるブレインフォグは、こうした急変とはまったく別のものです。けれども、頭の冴えが体の状態に根ざしているという原則は変わりません。だからこそ、頭のもやを「気のせい」と切り捨てず、体の土台から見直してみることには、意味があると私は考えています。
まとめ
- 「ブレインフォグ」は病名ではなく、頭がぼんやりして思考や集中が鈍く感じられる「状態」を表す言葉です。原因は一つではありません。
- 背景には、睡眠の質、慢性的なストレス、脳への血流、くすぶった炎症、ホルモンの変化、感染症のあと、栄養や血糖の乱れなどが、重なって関わっていると考えられています。
- 甲状腺の病気・貧血・うつ・睡眠時無呼吸などが背景のこともあります。長く続く、他の症状をともなう、日常に支障が出る——そうしたときは、自己判断せず医療機関にご相談ください。
- 明らかな病気が見当たらない場合は、睡眠・血流・ストレスといった、脳が働くための土台を整える視点が出発点になります。
もっとも、こうした土台が大切だと頭ではわかっていても、多忙な毎日のなかでそれを保ち続けるのは、想像以上に難しいものです。だからこそ医学や科学は、「その土台づくりを、どうすれば無理なく支えられるか」を模索し続けています。血流とストレス(自律神経)という体の根っこにはたらきかける——当院が取り組むストレスフリー療法も、体への穏やかな温熱刺激を通じて末梢の血流を高め、体を休息側へ導くことを目指す取り組みの一つです(研究知見にもとづくもので、はたらき方には個人差があります)。その科学的な考え方はストレスと老化の科学で解説しています。
頭のもやの背景に、体の土台という視点から目を向けることは、すっきりとした毎日を取り戻すための確かな一歩になるはずです。当院の取り組みはメニュー・料金ページでご案内しています。
よくある質問
Q. ブレインフォグは病気ですか?
A. 「ブレインフォグ」自体は正式な病名ではなく、頭がぼんやりする状態を表す言葉です。ただし、その背景に甲状腺の病気・貧血・うつ・睡眠時無呼吸などが隠れていることもあります。長く続く場合や、ほかの症状をともなう場合は、まずは医療機関にご相談ください。
Q. 感染症のあとに頭がぼんやりします。関係ありますか?
A. ウイルス感染などのあとに、ブレインフォグに似た状態や強い倦怠感が続くことがあると報告されています。多くは時間とともにやわらいでいきますが、長引く場合や日常生活に支障が出る場合は、自己判断せず医療機関に相談することをおすすめします。
Q. 自分でできることはありますか?
A. 明らかな病気が背景に見当たらない場合、脳が良い状態で働くための土台——十分な睡眠、体を動かして血流を促すこと、ストレスとのつき合い方、血糖を急上昇させない食べ方や水分補給——を整えることが基本になります。特別な近道よりも、こうした土台の積み重ねが役立つと考えられています。
参考文献
- Ouanes S, Popp J. High Cortisol and the Risk of Dementia and Alzheimer’s Disease: A Review of the Literature. Frontiers in Aging Neuroscience. 2019;11:43. doi:10.3389/fnagi.2019.00043.(慢性的に高いコルチゾールと記憶・認知機能低下との関連を概説したレビュー)
- Davis HE, McCorkell L, Vogel JM, Topol EJ. Long COVID: major findings, mechanisms and recommendations. Nature Reviews Microbiology. 2023;21(3):133–146. doi:10.1038/s41579-022-00846-2.(感染後に持続する認知機能低下=ブレインフォグを含む後遺症の知見を包括的に整理したレビュー)
本記事は健康に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の検査・治療の効果を保証するものではありません。「ブレインフォグ」は正式な診断名ではありません。研究知見には今後の検証が必要な発展段階のものが含まれます。体の状態には個人差があります。気になる症状が続く場合は、医療機関にご相談ください。
監修医プロフィール
院長
佐藤 琢紀(サトウ タクノリ)
元国立国際医療研究センター国府台病院救急科診療科長。専門:救急医療、集中治療、ストレスフリー療法、全人的医療。経歴:東北大学医学部卒、順天堂大学大学院卒。命の最前線である救急医療に20年以上従事。「病気になる前に救う」ための戦略的医療を提唱し、2023年より銀座数寄屋橋クリニック院長に着任。救急科専門医、医学博士。
- メッセージ
- こんにちは、院長の佐藤琢紀です。救急医として約20年間、36,000人もの診療に当たってきました。「病気になる前に救いたい」という思いから、いまは予防と若返りの医療へ。専門的な話もできるだけ自分の言葉でやさしくお届けします。様々な情報が溢れる時代だからこそ、「元氣で楽しい人生」を送る“本物”のヒントを皆さまに提供してまいります。 こちらでお願いいたします。
