暖かい居間から、ひんやりした脱衣所へ。服を脱いで、熱めのお湯にゆっくり浸かる——冬の何気ない習慣ですが、この一連の流れで、体には大きな負担がかかっています。

「ヒートショック」という言葉は、冬になるとよく耳にします。実はこれは、急激な温度の変化によって血圧が大きく変動し、体に負担がかかる状態を指す通称で、医学的な診断名ではありません。だからこそ、何が起きているのか、どんな場面が危ないのかを知っておくことが、予防の第一歩になります。

数字で見る、入浴中の事故

消費者庁の資料(令和7年12月23日)によると、令和6年に浴槽内での溺死・溺水(浴槽への転落を含む)で亡くなった方は7,776人にのぼります(厚生労働省「人口動態統計」)[1]。そのうち65歳以上が7,363人で、約95%を占めています。年齢別では、80歳以上が60.7%、65〜79歳が34.0%です[1]。

同じ資料では、不慮の事故のうち「交通事故」による65歳以上の死亡者数が2,103人であり、入浴にかかわる溺死・溺水はその3倍以上にあたるとされています[1]。また、東京消防庁によると、令和5年に溺れる事故で救急搬送された65歳以上の方は460人で、12月(85人)と1月(78人)に多いことが示されています[1]。

なお、これらの数字は「浴槽内での溺死・溺水」による死亡や搬送の統計であり、すべてが温度差による血圧変動(いわゆるヒートショック)で起きたものとは限りません。入浴中に意識を失う原因はさまざまで、血圧の変動のほか、熱いお湯による体温の上昇、持病、飲酒や薬の影響などが重なることもあります。ここでは、公的資料が示している範囲でお伝えします。

なぜ、入浴で体に負担がかかるのか

消費者庁の資料では、冬場の入浴中の事故の背景として、暖かい室内と寒い脱衣所・浴室との温度差などによる急激な血圧の変動が挙げられています[1]。また、熱いお湯に長く浸かると体温が上がり、意識がぼんやりして事故につながるおそれがあるとも指摘されています[1]。

流れとしては、おおむね次のようなイメージです。

  1. 暖かい部屋から寒い脱衣所へ移動し、服を脱ぐ。→ 寒さで血管が縮み、血圧が上がりやすい。
  2. 熱いお湯に入る。→ 血管が広がり、血圧が下がりやすい。
  3. 長く浸かる、または急に立ち上がる。→ 体温の上昇や血圧の低下で、意識がもうろうとしたり、立ちくらみが起きたりする。

血圧の上下は、心臓や脳の血管に負担をかけ、年齢を重ねるほど、あるいは血管に持病がある方ほど、その影響を受けやすくなります。血管の加齢については「血管年齢」とは何かで、体温の調節と自律神経のはたらきについては自律神経を整えるで扱っています。

今日からできる予防の工夫

消費者庁の資料でも、入浴前と入浴時の注意点が整理されています[1]。ポイントは「温度差を小さくする」「熱すぎず長すぎない」「一人にならない」の3つです。

入浴前

  • 脱衣所と浴室をあらかじめ暖めておく。 浴室暖房や、シャワーでお湯を浴槽に張って湯気を立てる方法があります。部屋ごとの温度差を、温度計で「見える化」するのも有効です。
  • 入浴前に水分をとる。
  • 食後すぐ、飲酒後、薬の服用後の入浴は避ける。
  • 同居している方がいれば、「これから入るね」と一声かける。

入浴時

  • 熱すぎるお湯、長時間の入浴を避ける。 湯温や時間は、温度計やタイマーで確認する習慣をつけてみてください。
  • 浴槽から急に立ち上がらない。 立ちくらみを防ぐため、ゆっくり動きます。
  • 「ぼんやりしてきた」と感じたら、気を失う前に湯を抜く。 無理に我慢しないことが大切です。
  • 同居の方は、こまめに声をかけて様子を確認する。

寒さにまつわる体のしくみは、低体温や手足の末梢の冷えと血流でも解説しています。

「お風呂で動かなくなった」——救急医の視点から

私は銀座数寄屋橋クリニックの院長を務める前、約20年にわたり国立の医療機関で救急医として勤務し、延べ約36,000人の患者さんの診療にあたってきました。

冬の救急の現場では、入浴中や入浴後に意識を失った状態で運ばれてくる方への対応が、決して珍しいものではありませんでした。発見が早ければ救える場面もあります。しかし、浴槽で意識を失い、発見が遅れた場合には、救命が極めて困難になることを何度も経験してきました。

そこで繰り返し痛感してきたのは、「見つけるまでの時間」が結果を大きく左右するということです。同居のご家族が「いつもより長いな」と気づいて声をかけてくださった場合と、数時間後に発見された場合では、状況がまるで違います。「入浴前の一声」「こまめな声かけ」といった、ごく小さな習慣が、命を分けることがあります。

もし、入浴中の方が呼びかけに反応しない、浴槽の中でぐったりしているといった場合は、次のように行動してください。

  • ためらわず救急要請(119番)をする。
  • 可能であれば、浴槽の栓を抜いて、顔が水につからないようにする。
  • 救急隊の指示に従い、状況に応じて心肺蘇生を始める。

「様子を見よう」「少し休めば戻るかもしれない」という判断が、取り返しのつかない遅れにつながることがあります。迷ったら、呼ぶ。 これが、救急医としてお伝えしたい最も大切なことです。

まとめ

  • 「ヒートショック」は、温度差による急激な血圧変動を指す通称で、医学的な診断名ではありません。
  • 令和6年の浴槽内での溺死・溺水による死亡は7,776人で、その約95%が65歳以上。12月・1月に多い傾向があります。
  • 予防の基本は、「温度差を小さくする」「熱すぎず長すぎない」「入浴前に一声かけ、こまめに見守る」の3つです。
  • 入浴中に反応がない場合は、ためらわず救急要請を。発見までの時間が結果を大きく左右します。

寒い季節にお風呂で温まることは、心地よい習慣です。その習慣を安全に続けるために、準備と声かけという小さな工夫を、ご自身とご家族のために取り入れてみてください。

当院はストレスフリー療法を専門に提供しており、ストレス反応や体温に着目しながら、穏やかな温熱刺激を通じて体の土台を支えることを目指しています(研究知見にもとづく予備的なもので、はたらき方や結果には個人差があり、費用は全額自己負担となります)[2]。入浴事故の予防や血圧変動への効果を示すものではありません。寒さによる不調や、立ちくらみ、冷えなど気になる症状がある場合は、当院にご相談ください(必要に応じて専門の病院を紹介いたします)。その科学的な考え方についてはストレスと老化の科学で解説しています。

日々の負荷とのつきあい方にご関心のある方は、施術の流れや費用をまとめた当院のメニュー・料金ページもあわせてご覧ください。


よくある質問

Q. ヒートショックを防ぐには、お湯の温度は何度にすればよいですか?
A. 消費者庁の資料では、熱いお湯や長時間の入浴を避け、湯温や時間を温度計やタイマーで「見える化」することが勧められています。具体的な数値は資料に示されていませんが、「熱すぎず、長すぎず」を意識し、脱衣所・浴室を事前に暖めて温度差を小さくすることが基本です。持病のある方は、主治医に入浴の注意点を確認してください。

Q. 一人暮らしの場合、どんな点に気をつければよいですか?
A. 入浴前の水分補給、脱衣所・浴室の暖房、熱すぎないお湯、ゆっくり立ち上がることなど、ご自身でできる対策を徹底してください。ぼんやりしたと感じたら、気を失う前に湯を抜くことも大切です。離れて暮らすご家族や知人に、入浴する時間帯をあらかじめ伝えておく、見守りサービスを活用するといった方法もあります。

Q. 血圧が高めで心配です。受診したほうがよいでしょうか?
A. 血圧の変動は、持病のある方や高齢の方ほど影響を受けやすくなります。血圧が気になる場合や、入浴中・入浴後に立ちくらみ、動悸、胸の痛みなどを感じたことがある場合は、当院にご相談いただくか、循環器内科・内科を受診してください。他院で治療中の場合は、主治医へのご相談を優先してください。

参考文献

  • 消費者庁 消費者安全課「年末年始、高齢者の事故に注意しましょう!——思いがけない事故のリスクは事前に減らすことができます——」(令和7年12月23日)— 令和6年の浴槽内での溺死・溺水による死亡者数(厚生労働省「人口動態統計」)、65歳以上が占める割合、東京消防庁による令和5年の高齢者の溺れる事故の月別救急搬送人員、入浴前・入浴時の注意点などを示した公的資料。出典
  • Ryotokuji K, et al.「Effect of pinpoint plantar long-wavelength infrared light irradiation on subcutaneous temperature and stress markers」(2013年、Laser Therapy, 22:93–102)— ストレスフリー療法と皮下温・ストレスマーカーに関する研究(小規模・予備的な研究であり、入浴事故や血圧変動の予防を検討したものではありません)。

※本記事の統計は、浴槽内での溺死・溺水に関する公的資料にもとづく一般的な情報であり、個々の方のリスクを予測したり、特定の対策による事故の防止を保証したりするものではありません。ストレスフリー療法に関する研究は小規模・予備的なものを含み、はたらき方や結果には個人差があります。


本記事は健康に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の検査・治療・製品の効果を保証するものではありません。気になる症状がある場合は、自己判断せず、当院や内科にご相談ください。入浴中に呼びかけに反応しない、呼吸が苦しい、胸の痛みがあるなどの場合は、ためらわず救急要請・救急受診をしてください。自由診療の費用は全額自己負担となります。体の状態には個人差があります。

監修医プロフィール

院長

佐藤 琢紀(サトウ タクノリ)

元国立国際医療研究センター国府台病院救急科診療科長。専門:救急医療、集中治療、ストレスフリー療法、全人的医療。経歴:東北大学医学部卒、順天堂大学大学院卒。命の最前線である救急医療に20年以上従事。「病気になる前に救う」ための戦略的医療を提唱し、2023年より銀座数寄屋橋クリニック院長に着任。救急科専門医、医学博士。

メッセージ
こんにちは、院長の佐藤琢紀です。救急医として約20年間、36,000人もの診療に当たってきました。「病気になる前に救いたい」という思いから、いまは予防と若返りの医療へ。専門的な話もできるだけ自分の言葉でやさしくお届けします。様々な情報が溢れる時代だからこそ、「元氣で楽しい人生」を送る“本物”のヒントを皆さまに提供してまいります。 こちらでお願いいたします。