「老化細胞」とは?溜まった細胞と体の老化・セノリティクスをやさしく解説
近年、老化研究のなかで大きな注目を集めているキーワードがあります。「老化細胞(ろうかさいぼう)」、そして、それを取り除こうとする「セノリティクス」という考え方です。
「歳をとると細胞も老いる」——なんとなくそう思っている方は多いかもしれません。けれども、ここでいう「老化細胞」は、単に古びた細胞のことではありません。分裂を止めたのに死なずに、体の中に居座り続ける、少し特別な細胞を指します。
この記事では、老化細胞とはそもそも何なのか、なぜ体に溜まると問題になりうるのか、そしてそれを除こうとするセノリティクス研究がいまどこまで来ているのかを、できるだけわかりやすく解説します。
老化細胞とは——「分裂を止めても死なない」細胞
私たちの細胞は、必要に応じて分裂し、古くなったり傷ついたりすると、通常は自ら退場する仕組み(細胞死)を持っています。新しい細胞と入れ替わることで、体は若々しさを保っています。
ところが、強いストレスやDNAの傷などをきっかけに、細胞が「これ以上は分裂しない」と決め、分裂を永久に止めてしまうことがあります。この状態を「細胞老化(さいぼうろうか、セネッセンス)」と呼び、こうなった細胞が「老化細胞」です。
やっかいなのは、老化細胞が分裂を止めたのに、すぐには死なずに体に居座り続けることです。若いうちは免疫の力などで掃除されますが、加齢とともにこの掃除が追いつかなくなり、老化細胞が少しずつ蓄積していくと考えられています[1]。
老化細胞は「悪者」なのか——諸刃の性質
ここで、大切な誤解を解いておきます。老化細胞は、単なる「悪者」ではありません。
そもそも細胞が分裂を止める仕組みは、傷ついた細胞が無秩序に増えるのを防ぐ、いわば「がん化へのブレーキ」として備わったものです。また、傷の修復や、発生の過程など、体にとって必要な場面で一時的に働く、有益な役割も知られています。
問題は、本来なら役目を終えて掃除されるはずの老化細胞が、長く体に居座り、数を増やしてしまうことにあります。つまり、老化細胞そのものが悪いというより、「一時的に働くべきものが慢性的に溜まる」ことが、加齢に関わる問題として注目されているのです。
SASP——老化細胞が周囲に及ぼす影響
老化細胞が蓄積すると、なぜ問題になりうるのでしょうか。かぎを握るのが「SASP(サスプ)」と呼ばれる現象です。
老化細胞は、ただ静かに居座っているわけではありません。周囲に向けて、炎症をひき起こす物質などを出し続けることが知られています。この一連の分泌活動をSASP(老化関連分泌形質)と呼びます。
少数ならば大きな影響はなくても、老化細胞が増え、SASPが積み重なると、周りの正常な細胞にも影響が及び、体の中で炎症がくすぶりやすくなると考えられています。この「体の中でくすぶる慢性的な炎症」は、加齢と深く関わるテーマで、慢性炎症と老化(インフラメイジング)でくわしく解説しています。老化細胞は、この慢性炎症の一因になりうる存在として位置づけられています。
セノリティクスとは——老化細胞を「除く」という発想
ここから、老化研究の最前線の話になります。
「老化細胞が溜まることが加齢に関わるのなら、それを選んで取り除けば、健やかな加齢につながるのではないか」——この発想から生まれたのが「セノリティクス(senolytics)」という考え方です。老化細胞を選択的に除こうとする物質やアプローチを指します。
動物実験では、蓄積した老化細胞を取り除くと、加齢にともなう体の衰えが遅れ、健康でいられる期間が延びたといった、注目すべき報告があります[2]。こうした結果が、この分野への期待を大きくしています。
ただし、冷静な線引きも欠かせません。これらの有望な結果の多くは、まだ細胞や動物モデル、あるいは初期段階のヒト研究で得られたものです。どの物質が、どんな人に、どれくらい安全で有効なのかは、いままさに研究が進められている段階にあります。話題の物質やサプリメントもありますが、「老化細胞を除けば若返る」と単純に言い切れる段階ではない、というのが正直なところです。
老化細胞と、どう向き合うか
では、私たちにできることは何もないのでしょうか。そんなことはありません。
老化細胞の蓄積やSASPは、生活習慣とも関わることが指摘されています。過度な紫外線、喫煙、慢性的なストレス、血糖値の乱高下などは、細胞にストレスを与え、細胞老化を進める方向にはたらくと考えられています。逆に、適度な運動、バランスのよい食事、質のよい睡眠といった土台は、体の掃除する力や炎症のバランスを支える方向にはたらくと考えられています。
華々しい「除去」の研究に目が向きがちですが、まずは老化細胞をむやみに増やさない暮らしを整えること——それが、いま確かにできる土台づくりです。
「働きを終えた細胞」を見つめて——救急医の視点から
私は銀座数寄屋橋クリニックの院長を務める前、約20年にわたり国立の医療機関で救急医として勤務し、延べ約36,000人の患者さんの診療にあたってきました。
けがや傷の修復の現場では、細胞老化はむしろ役に立つ場面があります。傷ついた組織を立て直す過程で、細胞が一時的に分裂を止めて働き、修復が済めば掃除されて退場していく——この「働いて、役目を終えたら退く」流れが、体をきれいに立て直すうえで大切なのだと、現場で感じてきました。
裏を返せば、問題は「退くべき細胞が居座り続けること」です。老化細胞をめぐる話は、私にはこの「後始末」の視点と重なって見えます。掃除する力を支え、居座りをむやみに増やさない——派手さはありませんが、体の若々しさを保つうえで理にかなった方向だと、経験から考えています。
まとめ
- 老化細胞は、強いストレスやDNAの傷をきっかけに分裂を永久に止めた、死なずに居座る細胞です。加齢とともに掃除が追いつかず蓄積すると考えられています。
- 老化細胞はがん化のブレーキや傷の修復といった有益な役割も持つ諸刃の存在で、問題は「慢性的に溜まること」。溜まった老化細胞はSASPを通じて慢性炎症の一因になりうるとされます。
- 除去をめざす「セノリティクス」は有望ですが、多くは動物モデルや初期段階のヒト研究です。まずは老化細胞を増やさない生活の土台づくりが確かにできることです。
老化細胞とセノリティクスは、これからの若返り研究を語るうえで欠かせないテーマです。とはいえ、その土台にあるのは、細胞にむやみなストレスをかけず、体の掃除する力と炎症のバランスを支える日々の暮らしだと考えられます。
当院が行うストレスフリー療法も、穏やかな温熱刺激を通じて、慢性炎症に傾きがちな体の土台を支えることを目指す取り組みです(研究知見にもとづく予備的なもので、はたらき方には個人差があります)。その科学的な考え方についてはストレスと老化の科学で解説しています。
細胞レベルの若々しさの土台づくりにご関心のある方は、当院のメニュー・料金ページもあわせてご覧ください。
よくある質問
Q. 老化細胞は、年齢を重ねればだれにでも溜まるのですか?
A. 加齢とともに、老化細胞を掃除する力が追いつかなくなり、少しずつ蓄積すると考えられています。ただし溜まり方には個人差があり、紫外線・喫煙・慢性的なストレス・血糖値の乱高下などの生活習慣も関わると指摘されています。
Q. 老化細胞は取り除いたほうがよいのですか?セノリティクスは受けられますか?
A. 動物実験では、蓄積した老化細胞の除去が健康な期間の延長につながったといった報告がありますが、ヒトでの効果・安全性・適切な方法は研究が進められている段階です。「除けば若返る」と言い切れる段階ではなく、話題の物質やサプリメントに安易に飛びつくことはおすすめできません。ご関心があれば、まず医師にご相談ください。
Q. 老化細胞を増やさないために、生活でできることはありますか?
A. 過度な紫外線や喫煙を避ける、慢性的なストレスをためこまない、血糖値を急に上げない食べ方を心がける、適度な運動・バランスのよい食事・質のよい睡眠を保つ——こうした土台が、細胞へのストレスを減らし、体のバランスを支える方向にはたらくと考えられています。
参考文献
・van Deursen JM.「The role of senescent cells in ageing」(2014年、Nature, 509(7501):439–446)— 細胞老化(セネッセンス)が、がん抑制・組織修復から加齢・加齢関連疾患まで果たす多面的な役割を整理した総説。doi:10.1038/nature13193. 出典
・Baker DJ, et al.「Naturally occurring p16^Ink4a-positive cells shorten healthy lifespan」(2016年、Nature, 530(7589):184–189)— マウスで自然に蓄積する老化細胞を除去すると、複数の臓器の機能が保たれ健康な期間が延びたことを示した研究。doi:10.1038/nature16932. 出典
※本記事で紹介した研究知見は、いずれも発展途上の研究分野におけるものであり、動物モデルや初期段階の研究を多く含みます。すべての方に同様の結果を保証するものではありません。
本記事は健康に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の検査・治療・製品の効果を保証するものではありません。研究知見には今後の検証が必要な発展段階のものが含まれます。体の状態には個人差があります。
監修医プロフィール
院長
佐藤 琢紀(サトウ タクノリ)
元国立国際医療研究センター国府台病院救急科診療科長。専門:救急医療、集中治療、ストレスフリー療法、全人的医療。経歴:東北大学医学部卒、順天堂大学大学院卒。命の最前線である救急医療に20年以上従事。「病気になる前に救う」ための戦略的医療を提唱し、2023年より銀座数寄屋橋クリニック院長に着任。救急科専門医、医学博士。
- メッセージ
- こんにちは、院長の佐藤琢紀です。救急医として約20年間、36,000人もの診療に当たってきました。「病気になる前に救いたい」という思いから、いまは予防と若返りの医療へ。専門的な話もできるだけ自分の言葉でやさしくお届けします。様々な情報が溢れる時代だからこそ、「元氣で楽しい人生」を送る“本物”のヒントを皆さまに提供してまいります。 こちらでお願いいたします。
