「朝、どうしても起き上がれない」「一日中だるさが抜けない」「ストレスが続いてから、心も体も電池が切れたようだ」——こうした不調を調べるうちに、「副腎疲労(アドレナル・ファティーグ)」という言葉にたどり着いた、という方は少なくありません。

はじめに、大切なことをお伝えしておきます。「副腎疲労」は、健康に関心の高い方のあいだで広く使われている言葉ですが、現在のところ、医学的に確立された診断名ではありません。この点には、はっきりした根拠があります。2016年に発表された系統的レビュー(過去の研究を体系的に集めて検証した論文)は、「副腎疲労」を裏づける科学的根拠は存在しない、と結論づけました[1]。また、世界最大の内分泌(ホルモン)の専門家組織である米国内分泌学会(The Endocrine Society)も、「副腎疲労」を正式な病気・診断として認めていません[2]。「慢性的なストレスで副腎が疲れ果て、ホルモンを十分に出せなくなる」という説は、直感的にはわかりやすいものの、それを支持する確かなデータが得られていないのが現状なのです(詳しい出典は記事末尾に記載しています)。

とはいえ、その言葉にたどり着いた方が感じている疲れやだるさは、決して気のせいではありません。問題は、その疲れを「副腎疲労」という一語で片づけてしまうと、本当の背景を見落としかねない、という点にあります。この記事では、「副腎疲労」という言葉が指しているものを、ストレスホルモン「コルチゾール」と、それを生み出す体の仕組み「HPA軸」という、確かな生理学の視点から整理していきます。

「副腎疲労」という言葉——どこから来て、なぜ医学では認められていないのか

副腎は、左右の腎臓の上に乗っている、それぞれ数グラムほどの小さな臓器です。ここから、ストレスに対応するホルモンであるコルチゾールなどが分泌されます。

「副腎疲労」という言葉が広まった背景には、「強いストレスが長く続くと、副腎が酷使されて疲弊し、コルチゾールを十分に出せなくなる。その結果、慢性的な疲労やだるさが起こる」という考え方があります。直感的にわかりやすく、ストレス社会の実感にも合うため、急速に知られるようになりました。

しかし、この「副腎が疲弊する」という説は、これまでの研究で裏づけられていません。複数の研究を検証した解析でも、いわゆる副腎疲労の状態と、コルチゾールの分泌パターンとのあいだに、一貫した関連は確認されていないと報告されています。つまり、「副腎が疲れている」という説明そのものに、確かな科学的根拠が見いだせていないのが現状です。だからこそ、医学では「副腎疲労」を病名としては扱わないのです。

混同してはいけない——「副腎疲労」と「副腎不全」は別物です

ここで、絶対に区別しておきたいことがあります。それは、「副腎疲労」と「副腎不全」はまったく別のものだ、という点です。

「副腎不全(アジソン病など)」は、副腎のはたらきが実際に低下し、コルチゾールなどが足りなくなる、れっきとした病気です。血液検査などで診断でき、放置すると命に関わることもある一方、適切な治療でしっかり対応できる病気でもあります。なお内分泌学会は、副腎が精神的・身体的なストレスによって「副腎疲労」を起こしたり機能を失ったりすることはない、と明確に述べています[3]。

混乱しやすいのは、名前が似ていることです。けれども、医学的に裏づけられていない「副腎疲労」という説明と、診断・治療の確立した「副腎不全」という病気を、ひとくくりにしてはいけません。強いだるさや立ちくらみ、体重の減少などが続く場合は、自己判断で「副腎疲労だろう」と決めつけず、まず医療機関で相談することが大切です。

では、その疲れの正体は?——コルチゾールとHPA軸という確かな科学

「副腎疲労」という説明は確かでなくても、感じている疲れには、必ず背景があります。その背景を考えるうえで土台になるのが、コルチゾールと「HPA軸」です。

HPA軸とは、脳(視床下部・下垂体)から副腎へとつながる、ストレスに対応するための指令系統のことです。ストレスを感じると、この経路を通じて副腎からコルチゾールが分泌され、体を活動モードに整えます。本来、コルチゾールは「朝に高く、夜に低い」という一日のリズムを持っていますが、強いストレスが途切れず続くと、このリズムが乱れることがあると報告されています。夜になっても下がりきらない、朝にうまく上がらない——そうしたリズムの乱れが、「朝起きられない」「日中だるい」といった感覚と関わっている可能性があります。

注目したいのは、これは「副腎が疲れ果てた」結果ではなく、ストレスに対する指令系統(HPA軸)全体の調子が乱れているという捉え方だという点です。副腎という一つの臓器の故障ではなく、脳から副腎までの連携のリズムの問題として見る——この視点のほうが、現在の科学とよく合っています。コルチゾールとそのリズムについては、ストレスホルモン「コルチゾール」を下げる科学でくわしく解説しています。

疲れの背景は、ひとつではない——重なりあう要因

「副腎疲労」という言葉で語られる疲れの背景には、コルチゾールのリズムの乱れに加えて、さまざまな要因が重なっていることが少なくありません。

  • 睡眠の質の低下:時間は足りていても、深く眠れていないと回復が進みません(寝ても疲れが取れないで解説しています)
  • 慢性的な疲労の蓄積:休んでも回復しきれない疲れには、体の疲れと脳の疲れが折り重なっていることがあります(休んでも疲れがとれない疲労の正体もあわせてご覧ください)
  • 隠れた病気:甲状腺の病気、貧血、睡眠時無呼吸、気持ちの落ち込み(うつ)など、対処すべき原因が背景にあることもあります

大切なのは、「副腎疲労」という一語ですべてを説明しようとせず、こうした要因を一つひとつ確かめていく姿勢です。疲れの正体は人によって異なり、だからこそ、決めつけずに見ていく必要があるのです。

「整える」という考え方——HPA軸の土台を支える生活の視点

「副腎疲労」は確立した病気ではない以上、「これさえすれば解決する」という特効的な方法をお示しすることはできません。けれども、ストレスに対応する仕組み(HPA軸)とコルチゾールのリズムを整える方向に、生活の土台から働きかけることはできると考えられています。

考え方の中心は、体を「闘うモード(交感神経優位)」から「休むモード(副交感神経優位)」へ切り替える時間を、意識して取り戻すことです。

  • コルチゾールが下がるべき夜の時間を守る:就寝・起床の時刻をそろえ、就寝前の強い光やスマートフォンを控える
  • 数分の深い呼吸や弛緩の時間をもつ:高ぶった神経をなだめる方向にはたらくと報告されています
  • 心地よく続けられる範囲で体を動かす:自分を追い込む過度な運動は、かえって負担になりうるため避ける
  • 自然や信頼できる人とのつながりに触れる:ストレス反応をやわらげる方向にはたらくと報告されています

これらに共通するのは、特別なことではなく、コルチゾールのリズムが本来のメリハリを取り戻すための「土台づくり」だという点です。

救急医の視点から——「副腎」という言葉を、私が軽く扱えない理由

私は銀座数寄屋橋クリニックの院長を務める前、約20年にわたり国立の医療機関で救急医として勤務し、延べ約36,000人の救急・重症患者の診療にあたってきました。

救急の現場では、「副腎クリーゼ」と呼ばれる状態に出会うことがあります。これは、副腎のはたらきが急激に足りなくなり、血圧が保てなくなるなどして、命に関わる事態に至るものです。本物の副腎の病気が、いかに体にとって重大か——私はそれを、現場で繰り返し目の当たりにしてきました。

だからこそ、私は「副腎疲労」という言葉を軽く扱うことができません。この言葉が広まること自体は、多くの方が自分の疲れに向き合おうとしている表れであり、決して否定すべきものではありません。けれども、「副腎疲労だろう」と自己判断して本当の病気を見落としてしまうことや、根拠の確かでない対処に頼ってしまうことは、避けたい。感じている疲れを大切に受け止めつつ、その背景を一つずつ、確かな目で確かめていく——それが、遠回りのようでいて、もっとも安全で確実な道だと、私は考えています。

まとめ

  • 「副腎疲労」は広く使われている言葉ですが、医学的に確立された診断名ではありません。「副腎が疲弊する」という説には、確かな科学的根拠が見いだせていないのが現状です。
  • 一方で、副腎のはたらきが実際に低下する「副腎不全」は、診断・治療の確立した本物の病気です。強いだるさなどが続く場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。
  • その言葉が指す疲れの背景を考えるうえで土台になるのが、コルチゾールと、それを生み出すHPA軸のリズムです。副腎単独の故障ではなく、ストレスに対応する指令系統全体の乱れとして捉える視点が、現在の科学とよく合っています。
  • 疲れの背景は、睡眠・慢性疲労・隠れた病気など、人によってさまざま。特効的な対処を探す前に、まず背景を一つずつ確かめ、コルチゾールのリズムを整える土台づくりに目を向けることが出発点になります。

もっとも、こうした生活の土台が大切だと頭ではわかっていても、緊張の途切れない毎日のなかでそれを保ち続けるのは、想像以上に難しいものです。だからこそ医学や科学は、「その土台づくりを、どうすれば無理なく支えられるか」を模索し続けています。ストレス(コルチゾール)と血流という体の根っこにはたらきかける——当院が取り組むストレスフリー療法も、体を休息側へ導き、その土台を支えることを目指す取り組みの一つです(研究知見にもとづくもので、はたらき方には個人差があります)。その考え方はストレスと老化の科学で詳しくご紹介しています。

疲れの背景に、コルチゾールとHPA軸という確かな視点から目を向けることは、体を内側から立て直す確かな一歩になるはずです。当院の取り組みはメニュー・料金ページでご案内しています。

よくある質問

Q.「副腎疲労」という診断は受けられますか?

A. 「副腎疲労」は医学的に確立された診断名ではないため、一般の医療では病名として扱われません。一方で、副腎のはたらきが実際に低下する「副腎不全」は、血液検査などで診断できる別の病気です。強いだるさや立ちくらみ、体重の減少などが続く場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。

Q. 副腎疲労のサプリメントは飲んだほうがよいですか?

A. 「副腎疲労」を対象とうたうサプリメントや、副腎のホルモンを補うとされる製品が市販されていることがあります。ただし、医学的根拠が確かでないものや、自己判断での使用が体に負担をかけうるものもあります。安易に頼る前に、まず疲れの背景を医療機関で確かめることをおすすめします。

Q. では、この疲れは何が原因なのでしょうか?

A. 一概には言えません。コルチゾールのリズムの乱れ、睡眠の質の低下、慢性疲労の蓄積のほか、甲状腺の病気・貧血・睡眠時無呼吸・気持ちの落ち込みなどが背景にあることもあります。だからこそ「副腎疲労」という一語で片づけず、背景を一つずつ確かめることが大切です。強い疲れが長く続く場合は、まずはかかりつけ医にご相談ください。

参考文献

  1. Cadegiani FA, Kater CE. Adrenal fatigue does not exist: a systematic review. BMC Endocrine Disorders. 2016;16(1):48. doi:10.1186/s12902-016-0128-4.(PMID: 27557747)
  2. The Endocrine Society. Adrenal Fatigue.(内分泌学会・患者向け解説)https://www.endocrine.org/patient-engagement/endocrine-library/adrenal-fatigue
  3. The Endocrine Society. Adrenal Insufficiency.(副腎不全の解説。副腎は精神的・身体的ストレスで「副腎疲労」を起こすことはない、と明記)https://www.endocrine.org/patient-engagement/endocrine-library/adrenal-insufficiency
  4. Mayo Clinic. Adrenal fatigue: What causes it? https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/addisons-disease/expert-answers/adrenal-fatigue/faq-20057906

本記事は健康に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の検査・治療の効果を保証するものではありません。「副腎疲労」は現時点で医学的に確立された診断名ではありません。研究知見には今後の検証が必要な発展段階のものが含まれます。体の状態には個人差があります。気になる症状が続く場合は、医療機関にご相談ください。

監修医プロフィール

院長

佐藤 琢紀(サトウ タクノリ)

元国立国際医療研究センター国府台病院救急科診療科長。専門:救急医療、集中治療、ストレスフリー療法、全人的医療。経歴:東北大学医学部卒、順天堂大学大学院卒。命の最前線である救急医療に20年以上従事。「病気になる前に救う」ための戦略的医療を提唱し、2023年より銀座数寄屋橋クリニック院長に着任。救急科専門医、医学博士。

メッセージ
こんにちは、院長の佐藤琢紀です。救急医として約20年間、36,000人もの診療に当たってきました。「病気になる前に救いたい」という思いから、いまは予防と若返りの医療へ。専門的な話もできるだけ自分の言葉でやさしくお届けします。様々な情報が溢れる時代だからこそ、「元氣で楽しい人生」を送る“本物”のヒントを皆さまに提供してまいります。 こちらでお願いいたします。