歯みがきのときに、歯ぐきから少し血が出る。朝起きると口の中がねばつく。最近、歯と歯のすき間に食べものが挟まりやすくなった——こうした小さな変化は、多くの場合、痛みを伴いません。そのため、つい後回しにされがちです。

しかし、これらは歯周病のサインであることがあります。そして歯周病は、口の中だけの問題ではなく、全身の慢性炎症の「入口」のひとつとして、近年注目されています。

「臓器年齢」という考え方で、臓器はそれぞれ違う速さで老いていくことをお伝えしました。今回は、毎日使っているのに意外と意識されない臓器——口腔、とくに歯ぐきを取り上げます。

日本の成人の2人に1人に、歯周病のサイン

歯周病は、歯と歯ぐきのすき間(歯周ポケット)に細菌がたまり、歯ぐきや歯を支える骨に炎症が起こる病気です。初期は歯ぐきの腫れや出血程度ですが、進行すると歯を支える骨が溶け、最終的には歯が抜けてしまうこともあります。

厚生労働省の資料によれば、令和4年の歯科疾患実態調査で、中等度以上の歯周病の目安となる「4mm以上の歯周ポケット」をもつ人の割合は47.9%——およそ2人に1人にのぼり、この割合は改善していないとされています[1]。また、永久歯を抜く原因として最も多いのは歯周病(37.1%)で、むし歯(29.2%)を上回っています[1]。

一方で、同じ資料では、市町村が行う歯周疾患検診の受診率は約5%にとどまり、とくに30〜40代の男性は歯科検診を受けている人の割合が低い傾向にあることも示されています[1]。忙しい働き盛りの世代ほど、口の中の変化が見過ごされやすい構造があるのです。

歯ぐきの炎症は、口の中にとどまらない

なぜ歯周病が全身と関わるのでしょうか。

歯周ポケットの内側の歯ぐきは、炎症によって傷つきやすくなっています。そこから、細菌やその成分、炎症を起こす物質(炎症性サイトカイン)が血液中に入り込みやすくなります。

2015年に発表された総説では、歯周病を口の中の細菌のバランスの崩れ(ディスバイオシス)と、それに対する体の免疫反応の行き過ぎによって起こる炎症性の病気と位置づけ、その炎症が口の中だけでなく、離れた臓器での炎症にも影響しうる仕組みが整理されています[4]。

これは、体の中で静かに続く慢性炎症が老化を進めるという「インフラメイジング」の考え方とも重なります。慢性炎症と老化の関係については慢性炎症と老化「インフラメイジング」で、同じく細菌と全身の関係という視点からは腸内環境と全身の健康で扱っています。

糖尿病との「双方向」の関係

歯周病と全身の病気の関係の中で、比較的よく整理されているのが糖尿病です。

2012年に欧州の専門家グループがまとめた総説では、両者は「双方向の関係」にあると整理されています[2]。

  • 糖尿病があると、歯周病になりやすく、進行しやすい。 血糖値が高い状態が続くと、感染への抵抗力や組織の修復力が落ちるためと考えられています。
  • 歯周病の炎症は、血糖のコントロールを悪くする方向にはたらく。 炎症性の物質が、インスリンのはたらきを妨げると考えられています。
  • そのうえで、歯周病の治療を行うと、HbA1c(過去1〜2か月の血糖の平均を反映する指標)が平均で約0.4%低下したという研究結果が紹介されています[2]。

血糖と老化の関係は糖化と老化でも扱いました。糖尿病のある方にとって、歯科での口腔管理は、血糖管理の一部として位置づけられつつあります。

心臓・血管との関係は「関連はあるが、因果は未確立」

歯周病と、心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性の病気との関係もよく話題になります。ここは、正確にお伝えしておきたいところです。

米国心臓協会(AHA)は2012年に、この問題を検討した科学的声明を発表しました[3]。その結論は次のようなものです。

  • 歯周病と動脈硬化性の病気のあいだには、喫煙や糖尿病などほかの要因を考慮しても、独立した関連が認められる。
  • しかし現時点の研究は、歯周病が動脈硬化性の病気の原因であるという因果関係を支持するものではない。
  • 歯周病の治療で全身の炎症や血管の機能が短期的に改善したという報告はあるものの、それが心臓病や脳卒中の予防につながるという証拠はない。

つまり、「歯周病を治せば心臓病を防げる」とは言えません。 一方で、喫煙、糖尿病、加齢といった共通のリスク要因を抱えていることが多いため、歯周病がある方は全身の血管の健康にも目を向けておく価値がある、というのが現時点での誠実な理解です。血管の加齢については「血管年齢」とは何かで扱っています。

日常で意識できること

歯周病は、日々のケアと定期的な点検で予防・管理しやすい病気でもあります。

  • 歯ぐきからの出血を「いつものこと」にしない。 健康な歯ぐきは、通常の歯みがきでは出血しません。
  • 歯と歯のあいだを清掃する。 歯ブラシだけでは届きにくい部分に、デンタルフロスや歯間ブラシを取り入れてください。
  • 歯科での定期的な点検とクリーニングを受ける。 歯周病は痛みなく進むため、自覚症状のないうちの点検が大切です。
  • 禁煙する。 喫煙は歯周病の大きなリスク要因であり、歯ぐきの出血を隠して発見を遅らせることもあります。
  • 血糖を管理する。 糖尿病のある方は、血糖管理と口腔管理を両輪で考えてください。
  • 睡眠と疲労にも気を配る。 疲れがたまると歯ぐきが腫れやすいと感じる方は多いものです。免疫と加齢の関係については「免疫の老化」とはで扱っています。

「口の中は、全身の状態を映す」——救急医の視点から

私は銀座数寄屋橋クリニックの院長を務める前、約20年にわたり国立の医療機関で救急医として勤務し、延べ約36,000人の患者さんの診療にあたってきました。

救急医の仕事は、救急外来での初期対応だけではありません。救急搬送された患者さんがそのまま入院となれば、病棟で引き続き全身の管理を担当します。肺炎、重い感染症、転倒により歩行困難になってしまった骨折——入院の理由はさまざまですが、病棟で毎日のように報告が上がってきていたのが、口の中の状態でした。

入院中は、看護師や歯科の専門職と連携しながら口腔ケアを行います。そのときに強く感じていたのは、救急搬送されて入院された方の中で、口の中の環境が良い方はほとんどいなかったということです。歯石がびっしりと付き、歯ぐきは赤く腫れ、むし歯が放置されている。合わない入れ歯をそのまま使い続けている。ご本人に伺うと、「何年も歯医者には行っていない」とおっしゃる方が少なくありませんでした。

誤解のないようにお伝えしておくと、歯周病やむし歯そのものが原因で、命に関わる重い感染症に陥る方は、ゼロではないものの非常にまれです。この記事でお伝えしてきたとおり、歯周病が全身の病気を直接引き起こすという因果関係も、確立しているわけではありません。

それでも、重い病気で入院される方の口の中が、そろって手入れの行き届いていない状態だったという事実は、私の中に強く残っています。口の中の状態は、その方がご自身の体にどれだけ目を向けてこられたか、そして全身の状態そのものを映し出す鏡のようなものだと感じてきました。

口の中は、体の中で最も細菌が多く集まる場所のひとつであり、同時に、自分の目で確かめられる数少ない「炎症の入口」でもあります。入院してから口腔ケアを始めるのではなく、元気なうちから口の健康に目を向けておくこと。それが、口の健康だけでなく、全身の健康を守ることにもつながっていると考えています。

まとめ

  • 令和4年の調査では、日本の成人の約2人に1人(47.9%)に、中等度以上の歯周病の目安となる4mm以上の歯周ポケットがあり、この割合は改善していません。永久歯を抜く原因として最も多いのも歯周病です。
  • 歯周病は、口の中の細菌のバランスの崩れと免疫反応の行き過ぎによる慢性炎症で、その炎症は口の中だけでなく全身の炎症にも影響しうると考えられています。
  • 糖尿病とは「双方向」の関係にあり、歯周病の治療によってHbA1cが平均約0.4%低下したという研究結果が紹介されています。
  • 心臓・血管の病気とは独立した関連が認められる一方で、因果関係は確立しておらず、歯周病の治療が心臓病や脳卒中を防ぐという証拠はありません。共通するリスク要因を意識し、全身の健康にも目を向けることが大切です。

口の中は、毎日自分の目で確かめられる「炎症の入口」です。歯ぐきの小さな出血や腫れを「いつものこと」にせず、日々のケアと定期的な点検を続けていくこと——それが、全身の慢性炎症と上手につきあうための、身近で確かな一歩になると考えています。

当院はストレスフリー療法を専門に提供しており、抗炎症にかかわる指標(IL-10など)やストレス反応に着目しながら、穏やかな温熱刺激を通じて体の土台を支えることを目指しています(研究知見にもとづく予備的なもので、はたらき方や結果には個人差があり、費用は全額自己負担となります)。当院は歯科・歯周病の専門的な診療は行っておりません。 慢性的な炎症や疲れやすさなど気になる症状がある場合は、当院にご相談ください。その科学的な考え方についてはストレスと老化の科学で解説しています。

日々の負荷とのつきあい方にご関心のある方は、施術の流れや費用をまとめた当院のメニュー・料金ページもあわせてご覧ください。


よくある質問

Q. 歯みがきのときに歯ぐきから血が出ます。歯周病でしょうか?
A. 健康な歯ぐきは、通常の歯みがきでは出血しません。出血は歯ぐきに炎症があるサインであり、歯周病の初期段階(歯肉炎)である可能性があります。初期であれば、適切なセルフケアと歯科でのクリーニングによって改善が期待できることも多いため、早めに歯科で状態を確認することをお勧めします。

Q. 歯周病を治療すれば、心臓病や脳卒中を防げますか?
A. 歯周病と動脈硬化性の病気のあいだには関連が認められていますが、米国心臓協会の科学的声明では、歯周病が原因であるという因果関係は確立しておらず、歯周病の治療が心臓病や脳卒中を防ぐという証拠もないとされています。ただし、喫煙や糖尿病など共通するリスク要因が多いため、口の健康とあわせて全身の健康管理に取り組むことは大切です。

Q. 糖尿病があると、歯周病に気をつけたほうがよいのはなぜですか?
A. 糖尿病があると歯周病になりやすく進行しやすい一方、歯周病の炎症は血糖のコントロールを悪くする方向にはたらくという「双方向の関係」が知られています。歯周病の治療によってHbA1cが低下したという研究結果もあるため、糖尿病のある方は、主治医による血糖管理とあわせて、歯科での定期的な口腔管理を続けることが勧められます。

参考文献

  • 厚生労働省 医政局歯科保健課 歯科口腔保健推進室「歯科口腔保健の推進に向けた取組等について」(2024年3月11日)— 令和4年歯科疾患実態調査にもとづき、4mm以上の歯周ポケットをもつ人の割合が47.9%で改善していないこと、永久歯の抜歯原因の最多が歯周病(37.1%)であること、歯周疾患検診の受診率が約5%であることなどを示した公的資料。出典
  • Preshaw PM, Alba AL, Herrera D, et al.「Periodontitis and diabetes: a two-way relationship」(2012年、Diabetologia, 55(1):21–31)— 糖尿病と歯周病の双方向の関係を整理し、歯周病治療によりHbA1cが約0.4%低下したという知見を紹介した総説。doi:10.1007/s00125-011-2342-y. PMID:22057194. 出典
  • Lockhart PB, et al.「Periodontal Disease and Atherosclerotic Vascular Disease: Does the Evidence Support an Independent Association? A Scientific Statement From the American Heart Association」(2012年、Circulation, 125(20):2520–2544)— 歯周病と動脈硬化性血管疾患のあいだに独立した関連は認められるが、因果関係を支持する証拠はなく、歯周病治療が動脈硬化性疾患を予防するという証拠もないと結論づけた米国心臓協会の科学的声明。出典
  • Hajishengallis G.「Periodontitis: from microbial immune subversion to systemic inflammation」(2015年、Nature Reviews Immunology, 15(1):30–44)— 歯周病を口腔細菌叢のバランスの崩れと免疫反応による炎症性疾患と位置づけ、口腔外の炎症にも影響しうる仕組みを整理した総説。doi:10.1038/nri3785. 出典
  • Ryotokuji K, et al.「Effect of Stress-Free Therapy on immune system: Induction of Interleukin 10 expression in lymphocytes through activation of regulatory B cells」(2015年、Laser Therapy, 24:179–188)— ストレスフリー療法と抗炎症性サイトカインIL-10に関する研究(小規模・予備的な研究であり、歯周病への効果を検討したものではありません)。

※上記の研究知見は口腔の健康と全身の関係についての一般的な理解を示すものであり、個々の方の将来の病気を予測したり、特定の検査・治療による効果を保証したりするものではありません。海外の研究データを日本人にそのまま当てはめることはできません。ストレスフリー療法に関する研究は小規模・予備的なものを含み、はたらき方や結果には個人差があります。


本記事は健康に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の検査・治療・製品の効果を保証するものではありません。当院は歯科・歯周病の専門的な診療は行っておりません。慢性的な炎症や疲れやすさなど気になる症状がある場合は、当院にご相談ください。歯ぐきの腫れ・出血など口の中の症状については、かかりつけの歯科での定期的な点検をお勧めします。自由診療の費用は全額自己負担となります。体の状態には個人差があります。

監修医プロフィール

院長

佐藤 琢紀(サトウ タクノリ)

元国立国際医療研究センター国府台病院救急科診療科長。専門:救急医療、集中治療、ストレスフリー療法、全人的医療。経歴:東北大学医学部卒、順天堂大学大学院卒。命の最前線である救急医療に20年以上従事。「病気になる前に救う」ための戦略的医療を提唱し、2023年より銀座数寄屋橋クリニック院長に着任。救急科専門医、医学博士。

メッセージ
こんにちは、院長の佐藤琢紀です。救急医として約20年間、36,000人もの診療に当たってきました。「病気になる前に救いたい」という思いから、いまは予防と若返りの医療へ。専門的な話もできるだけ自分の言葉でやさしくお届けします。様々な情報が溢れる時代だからこそ、「元氣で楽しい人生」を送る“本物”のヒントを皆さまに提供してまいります。 こちらでお願いいたします。