これまでこのブログでは、肝臓、腎臓、脳、皮膚、目と、臓器をひとつずつ取り上げ、それぞれの老化の仕組みを見てきました。

この記事では、いったん視点を引いて、こう問い直してみます。「あなたの体の中で、いちばん早く老いているのはどの臓器ですか?」

奇妙な質問に聞こえるかもしれません。しかし近年、この問いに数字で答えようとする研究が進んでいます。暦の年齢はひとりにつき一つですが、臓器の老い方は一つではない——それが、この記事でお伝えしたいことです。

血液から、11の臓器の「年齢」を読む

2023年に Nature 誌に発表された研究チーム(スタンフォード大学ら)は、5,000種類以上の血液中のタンパク質を測定し、そのうち特定の臓器で特に多く作られるタンパク質群に注目しました[1]。

たとえば、ある種のタンパク質は主に心臓の組織で作られ、血液中に漏れ出てきます。別のタンパク質は主に脳で作られます。研究チームは、こうした「臓器特異的なタンパク質」の血中パターンから、その臓器がどれだけ加齢の影響を受けているかを推定するモデルを、脳・心臓・腎臓・肝臓・肺など11の臓器それぞれについて構築しました。

そのうえで、同年代の人と比べてその臓器が「実際の年齢より老けているか、若く保たれているか」を示す「臓器年齢ギャップ」という指標を算出しました。プラス方向に大きければ、その臓器は同年代の平均より老化が進んでいる、ということになります。

「多臓器が一気に老いる人」は稀で、「一つの臓器だけ速い人」はありふれている

この研究で興味深いのは、老化の現れ方の偏りです。

解析対象となった集団のうち、特定の一つの臓器だけが著しく加齢が進んでいた人は約18%にのぼりました。一方で、複数の臓器で同時に強い加齢が進んでいた「多臓器老化」の人は、わずか1.7%にとどまりました[1]。

つまり、「全身が均等に老いる」というより、「特定の臓器だけが先に老いる」ケースのほうがずっと多いということです。そして、どの臓器が早く老いるかは人によって異なり、腎臓が先に老いる人は代謝性の病気と、心臓が先に老いる人は心臓の病気と、脳が先に老いる人は神経変性疾患と、それぞれ関連していたことも報告されています[1]。

なぜ重要なのか——臓器年齢は、将来の病気と結びついている

この指標が単なる数値遊びでないのは、将来の病気のリスクと明確に結びついているためです。

同じ研究では、心臓の老化が強く進んでいた人は、その後の心不全のリスクが約2.5倍高かったことが報告されています[1]。また、脳・血管の老化が進んでいた人では、認知症の代表的なバイオマーカーであるpタウ181に匹敵する精度で、アルツハイマー病の進行を予測できたとされています[1]。

さらに、臓器年齢ギャップが4歳分大きいだけで、その後15年間の追跡において全死亡リスクが15〜50%高くなったことも報告されています[1]。臓器年齢という考え方は、暦年齢だけでは見えない個人差を、実際の健康リスクに結びつけて捉え直す試みだと言えます。

こうした「老化を特徴づける細胞・分子レベルの現象」を機序の側から12に整理した枠組みについては、「老化の12の特徴」とはで扱っています[2]。あちらが機序という縦糸だとすれば、この記事で扱う臓器年齢は臓器という横糸にあたります。

このブログで見てきた「臓器ごとの老い方」

ここまでの臓器シリーズで扱ってきた内容は、この「臓器ごとに老い方が違う」という考え方の具体例そのものでした。

肝臓は沈黙して耐え続ける臓器として、腎臓は予備能が数値を隠す臓器として、脳は部位によって萎縮の速さが違う臓器として、皮膚は内因性老化と光老化が混ざり合う臓器として、目は水晶体と網膜という性質の異なる2つの構造を持つ臓器として、それぞれ違う老い方を見せていました。

臓器年齢という枠組みは、こうした個別の観察を「暦年齢は一つでも、その中身は臓器ごとに違う」という一枚の地図の上に並べ直すものです。次回は、この地図にもう一つのピース——心臓を加えます。あわせて、甲状腺・肺・聴覚・口腔といった臓器についても、順次この視点から取り上げていく予定です。

何ができるか——「測って終わり」ではない段階であることも知っておく

ここで正直にお伝えしておきたいことがあります。

血漿プロテオミクスによる臓器年齢の測定は、現時点では主に研究段階にある技術です。将来的に臨床応用が進む可能性はありますが、2023年の報告時点では、一般の医療機関で日常的に受けられる確立した検査という段階には至っていません。当院でこの臓器年齢測定そのものを提供しているわけではありません。

一方で、「臓器ごとの老い方には差がある」という発想自体は、日常の健診の読み方にも応用できます。肝機能・腎機能・心機能など、健診の項目を臓器別に並べて経年変化を見るという視点は、アンチエイジングドックとはでも扱った「検査で測れること・測れないこと」の話と地続きです。

「元気そうに見える人」の、どの臓器が先に音を上げるかは分からない——救急医の視点から

私は銀座数寄屋橋クリニックの院長を務める前、約20年にわたり国立の医療機関で救急医として勤務し、延べ約36,000人の患者さんの診療にあたってきました。

救急の現場で繰り返し思い知らされたことがあります。「元気そうに見える」ことと、「どの臓器にも余力がある」ことは、まったく別だということです。

毎日ジョギングをしている、見た目も若々しい、会話もはきはきしている——そういう方が、ある日突然、心不全や腎不全で運ばれてくることがありました。全身の印象からは想像しづらい、特定の臓器だけがひっそりと限界に近づいていた、というケースです。逆に、慢性の持病をいくつも抱えながら、驚くほど安定して長く過ごされる方もいました。

この記事で紹介した研究が示していたのも、似たような構図でした。多くの人にとって老化は、全身が均等に進むものではなく、特定の一つの臓器が先に音を上げる形で訪れる。 そして、どの臓器が先に来るかは、外から見ただけでは分かりません。

だからこそ私は、「元気だから大丈夫」という直感だけに頼らず、臓器ごとに区切って定期的に数値を確認しておくことに意味があると考えています。どの臓器が自分にとっての「弱点」になりうるかは、家族歴や既往、生活習慣によってある程度の見当がつくこともあります。次回以降の臓器シリーズが、そうした見当をつけるための材料になれば、と思っています。

まとめ

  • 2023年に発表された研究では、血液中の臓器特異的なタンパク質のパターンから、脳・心臓・腎臓・肝臓・肺など11の臓器それぞれの「老化の進み具合」を推定するモデルが構築されました。
  • 特定の一つの臓器だけが著しく加齢が進んでいた人は約18%にのぼった一方、複数の臓器で同時に強い加齢が進んでいた人はわずか1.7%でした。老化は全身一律ではなく、特定の臓器に偏って現れることのほうが多いという結果です。
  • 臓器年齢の指標は、将来の病気のリスクと結びついています。心臓の老化が進んでいた人は心不全リスクが約2.5倍、臓器年齢ギャップが4歳大きいだけで15年間の全死亡リスクが15〜50%高いことが報告されています。
  • この測定技術自体は現時点では主に研究段階であり、当院を含め一般の医療機関で日常的に受けられる検査ではありません。ただし「臓器ごとに老い方が違う」という視点は、日々の健診結果を読み解くうえでも役立つ考え方です。

暦年齢という一つの数字の裏側には、それぞれ違う速さで時を刻む臓器たちがあります。次回からは、この臓器シリーズの続きとして、心臓の老化を取り上げます。

当院はストレスフリー療法を専門に提供しており、末梢血流の改善や自律神経のはたらきに着目しながら、穏やかな温熱刺激を通じて全身のめぐりを介して体の土台を支えることを目指しています(研究知見にもとづく予備的なもので、はたらき方や結果には個人差があり、費用は全額自己負担となります)。ただし特定の臓器の老化そのものを止める、または臓器年齢を若返らせる効果を保証するものではありません。 個々の臓器に関する研究知見は、それぞれの臓器を扱った記事内でご紹介しています。その科学的な考え方についてはストレスと老化の科学で解説しています。

細胞レベルの若々しさや生物学的年齢にご関心のある方は、施術の流れや費用をまとめた当院のメニュー・料金ページもあわせてご覧ください。


よくある質問

Q. 自分の「臓器年齢」を調べることはできますか?
A. この記事で紹介した血漿プロテオミクスによる臓器年齢測定は、2023年時点では主に研究段階の技術であり、一般の医療機関で広く受けられる確立した検査ではありません。当院でもこの検査そのものは提供しておりません。健診の肝機能・腎機能・心機能などの項目を臓器別に分けて経年で見比べることは、同様の視点を日常的に取り入れる一つの方法です。

Q. 「臓器年齢」が高いと分かったら、その臓器の老化を止められますか?
A. 臓器年齢という指標自体は、現状を数値として把握するためのものであり、それ自体が治療法を意味するわけではありません。研究では、心臓の老化が進んでいた場合の心不全リスクなど、将来の病気との関連が示されていますが、特定の介入でその臓器の老化を確実に遅らせられるという段階には至っていません。気になる臓器がある場合は、その臓器に応じた検査や医療機関への相談を優先してください。

Q. すべての臓器が同じように老いていくわけではないのですか?
A. はい。この記事で紹介した研究では、複数の臓器が同時に強く老化していた人はわずか1.7%で、多くの人では特定の一つの臓器だけが先に加齢の影響を受けていました。全身が均等に老いるというより、人によって「先に老いる臓器」が異なるというのが、現時点での理解です。

参考文献

  • Oh HS-H, Rutledge J, Nachun D, et al.「Organ aging signatures in the plasma proteome track health and disease」(2023年、Nature, 624(7990):164–172)— 血漿中の臓器特異的タンパク質から11臓器それぞれの老化の進み具合を推定するモデルを構築し、心臓・脳血管の加齢が心不全リスクやアルツハイマー病進行と関連すること、臓器年齢ギャップが全死亡リスクと関連することを報告した研究。doi:10.1038/s41586-023-06802-1. 出典
  • López-Otín C, Blasco MA, Partridge L, Serrano M, Kroemer G.「Hallmarks of aging: An expanding universe」(2023年、Cell, 186(2):243–278)— 老化を特徴づける細胞・分子レベルの現象を12に整理した総説。doi:10.1016/j.cell.2022.11.001. 出典
  • Ryotokuji K, et al.「Effect of pinpoint plantar long-wavelength infrared light irradiation on subcutaneous temperature and stress markers」(2013年、Laser Therapy, 22:93–102)— ストレスフリー療法と皮下温度・ストレス指標に関する研究(小規模・予備的な研究であり、特定臓器の老化そのものへの効果を検討したものではありません)。

※上記の研究知見は臓器ごとの老化の進み方に関する一般的な理解を示すものであり、個々の方の将来の病気を予測したり、特定の検査・治療による効果を保証したりするものではありません。血漿プロテオミクスによる臓器年齢測定は主に研究段階の技術であり、当院を含め一般の医療機関で広く提供されている検査ではありません。ストレスフリー療法に関する研究は小規模・予備的なものを含み、はたらき方や結果には個人差があります。


本記事は健康に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の検査・治療・製品の効果を保証するものではありません。特定の臓器の不調や症状が続く場合は、自己判断をせず医療機関にご相談ください。自由診療の費用は全額自己負担となります。体の状態には個人差があります。

監修医プロフィール

院長

佐藤 琢紀(サトウ タクノリ)

元国立国際医療研究センター国府台病院救急科診療科長。専門:救急医療、集中治療、ストレスフリー療法、全人的医療。経歴:東北大学医学部卒、順天堂大学大学院卒。命の最前線である救急医療に20年以上従事。「病気になる前に救う」ための戦略的医療を提唱し、2023年より銀座数寄屋橋クリニック院長に着任。救急科専門医、医学博士。

メッセージ
こんにちは、院長の佐藤琢紀です。救急医として約20年間、36,000人もの診療に当たってきました。「病気になる前に救いたい」という思いから、いまは予防と若返りの医療へ。専門的な話もできるだけ自分の言葉でやさしくお届けします。様々な情報が溢れる時代だからこそ、「元氣で楽しい人生」を送る“本物”のヒントを皆さまに提供してまいります。 こちらでお願いいたします。