冬になると気分が落ちるのはなぜ?——光・体内時計と季節性の不調
日が短くなり、夕方5時にはもう暗い。朝、布団から出るのがつらく、日中も眠い。甘いものや炭水化物がやたらと欲しくなり、人に会うのも億劫になる——毎年、秋の終わりから冬にかけて、こうした変化を感じる方は少なくありません。
「冬だから仕方ない」「気持ちの問題だ」と片づけられがちですが、季節に連動して気分や体調が落ち込む状態には、医学的な名前と、ある程度分かってきたしくみがあります。この記事では、冬に起こりやすい季節性の不調——いわゆる冬季うつについて整理します。
「冬季うつ」とは何か
季節性感情障害(SAD:Seasonal Affective Disorder)とは、毎年ほぼ同じ季節に気分の落ち込みが繰り返し現れ、季節が変わると回復するというパターンをもつ、うつ病の一つのタイプです。多くは秋から冬に始まり、春から夏にかけて軽快します。これが、いわゆる「冬季うつ」です。
この状態は、1984年に米国の研究者らによって初めて体系的に報告されました[1]。報告では、冬に繰り返すうつ状態の特徴として、眠りすぎ(過眠)、食べすぎ、炭水化物への強い欲求が挙げられ、気候や緯度の変化に反応するように見えることが示されました。
米国国立精神衛生研究所(NIMH)の資料では、冬型の季節性感情障害に特徴的な症状として、次のようなものが挙げられています[2]。
- 眠りすぎる、朝起きられない
- 食べすぎる、とくに炭水化物が欲しくなり、体重が増える
- 人との交流を避け、「冬眠」したいような気持ちになる
これに加えて、気分の落ち込み、興味や喜びの低下、疲れやすさ、集中力の低下といった、うつ病に共通する症状がみられます[2]。
一般的なうつ病では「眠れない」「食欲がない」ことが多いのに対し、冬季うつでは「眠りすぎる」「食べすぎる」という、むしろ逆の方向の変化が目立つことがあるのが特徴です。そのため、「怠けているだけ」「冬太りしただけ」と誤解されやすい面があります。
なぜ冬に起こるのか——光と体内時計
冬季うつのしくみは完全には解明されていませんが、日照時間の短縮が中心的な役割を果たしていると考えられています[2]。
私たちの体には、約24時間周期のリズムを刻む体内時計(概日リズム)があります。この時計は、朝の光を目から取り込むことで毎日リセットされています。体内時計そのものの仕組みについては体内時計の乱れと老化で扱いました。
冬になって朝の光が弱く、浴びる時間も短くなると、次のような変化が起こると考えられています[2]。
- 体内時計のずれ。 朝のリセットが弱まり、睡眠と覚醒のリズムが後ろにずれやすくなります。
- メラトニンの変化。 暗い時間が長くなることで、眠りを促すホルモンであるメラトニンのはたらき方が変わり、日中の眠気やだるさにつながる可能性があります。
- セロトニンの変化。 気分の安定に関わる脳内の物質セロトニンのはたらきが、日照の少ない季節に低下しやすいという指摘があります。
日照時間は緯度が高いほど冬に短くなるため、北の地域ほど冬季うつが多い傾向があるとされています[2]。ただ、都市部でも、朝は暗いうちに家を出て、日中は屋内で過ごし、暗くなってから帰宅するという生活では、実際に浴びる光の量は季節以上に少なくなっていることがあります。
「冬の気分の波」と「冬季うつ」の違い
冬に多少気分が沈む、活動量が落ちる、という程度の変化は、多くの人が経験するものです。一方で、次のような場合は、単なる「冬の気分の波」を超えている可能性があります。
- 気分の落ち込みや意欲の低下が、2週間以上ほぼ毎日続いている
- 仕事や家事、人付き合いなど、日常生活に支障が出ている
- 毎年同じ時期に同じような状態を繰り返している
- 眠りすぎ・食べすぎ・体重増加が目立つ
なお、甲状腺のはたらきの低下や貧血、睡眠時無呼吸症候群など、体の病気が似た症状を起こすこともあります。だるさや眠気が続くときは、体の側の原因がないかを確認することも大切です。睡眠そのものについては寝ても疲れが取れないのはなぜ?で、頭がぼんやりする状態についてはブレインフォグとはで扱っています。
気分の落ち込みが強い、何もできないほどつらい、死にたい気持ちが浮かぶ、といった場合は、季節のせいと様子を見ずに、すぐに医療機関や相談窓口に相談してください。
光療法という選択肢
冬季うつに対しては、光療法という治療法が1980年代から研究されてきました[1][2]。専用の照明器具の前で、主に朝に一定時間、強い光を浴びる方法です。
2020年に発表された、無作為化比較試験19件を統合したメタ解析では、強い光を用いた光療法は、弱い光などを用いたプラセボと比べて、うつ症状の改善と治療への反応の両面で優れていたと報告されています[3]。一方で、研究の規模や質にはばらつきがあり、効果の大きさは小〜中程度にとどまることにも注意が必要です。
光療法は手軽に見えますが、自己判断で行うことはお勧めしません。 季節に連動した気分の波は、まれに双極性障害(躁うつ病)と関わっていることがあり[1]、その場合には光によって気分が上がりすぎる可能性があります。また、目の病気がある方などは注意が必要です。実施するかどうか、どのように行うかは、精神科・心療内科などで医師と相談してください。
日常で意識できること
冬季うつの予防法として確立したものはありませんが、光と体内時計を意識した生活の工夫は、冬の体調管理全般に役立つと考えられています。
- 朝、起きたら光を浴びる。 カーテンを開ける、窓際で朝食をとる、通勤時に少し日の当たる道を歩くなど、朝の光を意識的に取り入れてください。
- 起きる時間をそろえる。 休日も平日と同じ時間に起きることで、体内時計のずれを小さくできます。
- 日中に外へ出る。 昼休みに数分でも屋外を歩くと、屋内の照明よりはるかに強い光を浴びることができます。
- 体を動かす。 適度な運動は気分や睡眠にも好ましい影響があるとされています。
- 人とのつながりを保つ。 「冬眠したい」気持ちに任せて人付き合いを減らしすぎないことも大切です。
- 甘いものの食べすぎに注意する。 炭水化物への欲求が強まる時期であることを知っておくだけでも、食べすぎに気づきやすくなります。
ストレスが自律神経やホルモンを介して心身に及ぼす影響については、自律神経の乱れを整えるやコルチゾールを下げる科学で扱っています。
冬の救急外来で見えた「心の季節変動」——救急医の視点から
私は銀座数寄屋橋クリニックの院長を務める前、約20年にわたり国立の医療機関で救急医として勤務し、延べ約36,000人の患者さんの診療にあたってきました。
冬の救急外来は、インフルエンザや心臓・脳の病気、入浴中の事故などで慌ただしくなります。その一方で、「とにかくだるい」「頭が重い」「食欲がおかしい」といった訴えで受診される方も少なくありませんでした。
救急医の仕事は、まず命に関わる体の病気がないことを確かめることです。血液検査や画像検査を行い、緊急性の高い病気がないことを確認する。そのうえでお話を丁寧に伺うと、「毎年この時期になると、何もやる気が起きなくなる」「朝がつらくて、仕事に行くのがやっと」と、気分の季節変動が背景にあったと分かることがありました。
ご本人は「体のどこかが悪いに違いない」と考えて受診されていることが多く、心の不調という可能性には思い至っていないことがほとんどです。体の病気がないと分かったこと自体を安心材料にしていただきつつ、季節に連動した心の変化という見方があることをお伝えする——それも、救急外来の大切な役割だと考えていました。
冬の不調は、体と心の両方から見る必要があります。「冬だから仕方ない」と我慢を重ねる前に、その不調が毎年繰り返していないか、一度振り返ってみていただきたいと思います。
まとめ
- 季節性感情障害(冬季うつ)は、毎年ほぼ同じ季節に気分の落ち込みを繰り返し、季節が変わると回復するタイプのうつ病です。冬型では、眠りすぎ・食べすぎ・炭水化物への欲求・人付き合いを避ける気持ちなどが特徴的です。
- 中心にあると考えられているのは日照時間の短縮で、体内時計のずれや、メラトニン・セロトニンのはたらきの変化が関わっていると考えられています。
- 光療法は、19件の無作為化比較試験を統合したメタ解析でプラセボより優れていたと報告されていますが、効果の大きさは小〜中程度で、自己判断での実施は勧められません。
- 朝の光を浴びる、起きる時間をそろえる、日中に外へ出る、体を動かす、人とのつながりを保つといった工夫が、冬の体調管理に役立つと考えられています。強い落ち込みや死にたい気持ちがある場合は、すぐに医療機関や相談窓口に相談してください。
冬の気分の落ち込みは、意志の弱さではなく、光と体内時計という体のしくみと結びついた変化です。そのしくみを知っておくことが、毎年やってくる季節と上手につきあうための第一歩になると考えています。
当院はストレスフリー療法を専門に提供しており、ストレス反応や自律神経のはたらきに着目しながら、穏やかな温熱刺激を通じて体の土台を支えることを目指しています(研究知見にもとづく予備的なもので、はたらき方や結果には個人差があり、費用は全額自己負担となります)。当院は精神科・心療内科の専門的な診療は行っておりません。 冬になると続くだるさや気分の落ち込みなど気になる症状がある場合は、当院にご相談ください。その科学的な考え方についてはストレスと老化の科学で解説しています。
日々の負荷とのつきあい方にご関心のある方は、施術の流れや費用をまとめた当院のメニュー・料金ページもあわせてご覧ください。
よくある質問
Q. 毎年冬になると眠くてだるくなります。冬季うつでしょうか?
A. 冬に眠気やだるさが増すことは多くの人が経験しますが、それだけで冬季うつとは言えません。気分の落ち込みや意欲の低下が2週間以上ほぼ毎日続き、生活に支障が出ている、毎年同じ時期に繰り返している、といった場合は、冬季うつの可能性も含めて相談することをお勧めします。また、甲状腺のはたらきの低下や貧血、睡眠時無呼吸症候群など、体の病気が似た症状を起こすこともあるため、体の側の確認も大切です。
Q. 市販の光療法用のライトを使ってもよいですか?
A. 光療法は研究で一定の効果が報告されていますが、自己判断での使用はお勧めしません。季節に連動する気分の波が双極性障害と関わっている場合には気分が上がりすぎる可能性があり、目の病気がある方などは注意が必要です。使用を考えている場合は、事前に精神科・心療内科などで医師に相談してください。
Q. 冬季うつを予防するために、日常でできることはありますか?
A. 確立した予防法はありませんが、朝起きたらカーテンを開けて光を浴びる、休日も起きる時間をそろえる、昼休みなどに屋外を歩く、適度に体を動かす、人との交流を保つといった工夫は、体内時計を整え、冬の体調管理に役立つと考えられています。
参考文献
- Rosenthal NE, et al.「Seasonal affective disorder. A description of the syndrome and preliminary findings with light therapy」(1984年、Archives of General Psychiatry, 41(1):72–80)— 冬に繰り返すうつ状態(過眠・過食・炭水化物への欲求を特徴とする)を季節性感情障害として初めて体系的に報告し、光療法の予備的な効果を示した研究。対象者の多くは双極性障害(特にII型)であったことも報告されています。出典
- National Institute of Mental Health(米国国立精神衛生研究所)「Seasonal Affective Disorder」— 季節性感情障害の症状(冬型の過眠・過食・社会的引きこもり等)、日照時間・体内時計・メラトニン・セロトニンとの関連、光療法を含む治療を解説した公的資料。出典
- Pjrek E, et al.「The Efficacy of Light Therapy in the Treatment of Seasonal Affective Disorder: A Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials」(2020年、Psychotherapy and Psychosomatics, 89(1):17–24)— 無作為化比較試験19件を統合し、強い光を用いた光療法がプラセボより優れていた(うつ評価の標準化平均差 −0.37、反応のリスク比 1.42)と報告したメタ解析。doi:10.1159/000502891. 出典
- Ryotokuji K, et al.「Effect of pinpoint plantar long-wavelength infrared light irradiation on subcutaneous temperature and stress markers」(2013年、Laser Therapy, 22:93–102)— ストレスフリー療法と皮下温度・ストレス指標に関する研究(小規模・予備的な研究であり、気分障害への効果を検討したものではありません)。
※上記の研究知見は季節性の気分の変化に関する一般的な理解を示すものであり、個々の方の診断や治療の要否を示すものではありません。海外の研究データを日本人にそのまま当てはめることはできません。ストレスフリー療法に関する研究は小規模・予備的なものを含み、はたらき方や結果には個人差があります。
本記事は健康に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の検査・治療・製品の効果を保証するものではありません。当院は精神科・心療内科の専門的な診療は行っておりません。冬になると続くだるさや気分の落ち込みなど気になる症状がある場合は、当院にご相談ください。強い落ち込みや死にたい気持ちがある場合は、ためらわずにすぐ医療機関や相談窓口にご相談ください。自由診療の費用は全額自己負担となります。体の状態には個人差があります。
監修医プロフィール
院長
佐藤 琢紀(サトウ タクノリ)
元国立国際医療研究センター国府台病院救急科診療科長。専門:救急医療、集中治療、ストレスフリー療法、全人的医療。経歴:東北大学医学部卒、順天堂大学大学院卒。命の最前線である救急医療に20年以上従事。「病気になる前に救う」ための戦略的医療を提唱し、2023年より銀座数寄屋橋クリニック院長に着任。救急科専門医、医学博士。
- メッセージ
- こんにちは、院長の佐藤琢紀です。救急医として約20年間、36,000人もの診療に当たってきました。「病気になる前に救いたい」という思いから、いまは予防と若返りの医療へ。専門的な話もできるだけ自分の言葉でやさしくお届けします。様々な情報が溢れる時代だからこそ、「元氣で楽しい人生」を送る“本物”のヒントを皆さまに提供してまいります。 こちらでお願いいたします。
