静かに減っていく腎機能——腎臓の老化と全身のめぐり
健康診断の結果表で、腎機能の欄はたいてい一行か二行です。クレアチニン、そしてeGFR(推算糸球体ろ過量)。数字が基準の内側にあれば、そこで話は終わります。
けれども腎臓は、症状がほとんど出ないまま静かに変化していく臓器です。しかも、その変化は思いのほか早い時期から始まっています。
この記事では、腎臓という臓器が加齢とともにどう変わっていくのか、そして「クレアチニンが正常」という言葉が何を意味し、何を意味しないのかを整理します。
腎臓は、実は「血管の臓器」である
腎臓というと「おしっこを作るところ」というイメージが一般的だと思います。それは間違いではありませんが、構造から見ると腎臓はむしろ血管の塊です。
腎臓の中には、糸球体(しきゅうたい)と呼ばれる毛細血管の毛玉のような装置が、片側に約100万個ずつ入っています。この糸球体と、それに続く尿細管がひと組になったものをネフロンと呼び、これが腎臓の機能単位です。
心臓から送り出される血液のおよそ4分の1が、この小さな臓器に流れ込みます。全身の血液は一日に何十回もここを通過し、そのたびにろ過され、必要なものが回収され、不要なものが尿へと送られていきます。
つまり腎臓は、全身のめぐりの状態がそのまま反映される場所でもあります。血管がしなやかさを失えば、その影響は腎臓の中の細い血管にも及びます。血管全体の加齢については「血管年齢」とは何かで、微小循環そのものについては「ゴースト血管」と若返りで扱っていますので、あわせてご覧ください。
加齢とともに、腎臓に何が起きているのか
ネフロンの数が減っていく
もっとも大きな変化は、機能しているネフロンの数が減ることです。
健康な腎提供者(生体腎移植のドナー)を対象とした研究では、若い年齢層と高い年齢層を比べたとき、硬化していない(=働いている)糸球体の数がおよそ半分にまで減っていたことが報告されています[1]。一方で、腎皮質の容積の減り方はそれよりずっと小さく、また生検で見つかる「硬化した糸球体」の割合の増加も、数の減少を説明しきるほどではありませんでした。
これは何を意味するでしょうか。失われたネフロンの多くは、硬化した姿を残すことすらなく消えていき、残ったネフロンが大きくなって仕事を肩代わりしている、という理解が現在では有力です[2]。
つまり腎臓は、頭数を減らしながら、残ったメンバーの残業でつじつまを合わせている——そんなイメージに近いと言えます。
組織そのものが硬くなっていく
顕微鏡のレベルでも変化は進みます。細い動脈の壁が厚くなる(動脈硬化・細動脈硬化)、糸球体が硬化する、尿細管が萎縮して間質に線維がたまる——これらをまとめて腎硬化(ネフロスクレローシス)と呼びます[2][3]。
高齢になるほどこの所見の頻度は上がりますが、注意したいのは、これらが病気の人だけに見られる変化ではないという点です。腎臓の病気がなく、血圧も正常な方の腎臓にも、加齢に伴って一定の割合で観察されます[3]。
こうした変化は、老化研究で整理されてきた細胞・分子レベルの現象——ゲノムの損傷、細胞老化、軽度の慢性炎症など——と重なる部分があります。その全体像については「老化の12の特徴」とはでくわしく解説しています。
ろ過の能力は、ゆっくり、しかし着実に下がる
機能の面ではどうでしょうか。
長期にわたって同じ方々を追いかけたアメリカの縦断研究では、腎臓や尿路の病気がなく、降圧薬や利尿薬も使っていない方々の平均で、クレアチニンクリアランス(ろ過能力の指標)が1年あたり約0.75 mL/分ずつ低下していたと報告されています[4]。10年で7〜8 mL/分ほどの計算です。
ただし、この研究がもう一つ示していることのほうが、私は大切だと考えています。それは、追跡された方の3分の1では、機能の絶対的な低下が認められなかったという点です[4]。腎機能の低下速度には、かなり大きな個人差があるということです。
「歳をとれば一律に落ちる」のではなく、「平均するとゆっくり落ちるが、人によってかなり違う」——これが実態に近い姿です。
「クレアチニンが正常」の落とし穴
ここからが、健診結果を見るときにいちばん知っておいていただきたい部分です。
腎臓には大きな予備がある
腎臓は、機能のかなりの部分を失うまで血液検査に変化が出にくい臓器です。残ったネフロンが一つあたりのろ過量を増やして補うため、全体としてのろ過量はしばらく維持されてしまうからです[2]。
これは腎臓の優秀さの表れであると同時に、気づいたときには相当進んでいるという性質でもあります。肝臓が「沈黙の臓器」と呼ばれるのと似た構図で、この点については沈黙の臓器・肝臓は老いるのかでも扱っています。
クレアチニンは「筋肉の量」に左右される
もう一つ、見落とされやすい点があります。
クレアチニンは、筋肉の中の物質が分解されてできる老廃物です。したがって血液中のクレアチニン値は、腎臓のろ過能力だけでなく、その人がどれだけ筋肉を持っているかにも左右されます。
日本人向けのeGFR推算式も、クレアチニン値に年齢と性別を組み合わせて計算する形になっています[5]。年齢による筋肉量の平均的な変化はある程度織り込まれていますが、個人差までは織り込めません。
そのため、筋肉量が平均より少ない方では、クレアチニンが低く出るぶん、腎機能が実際より良く見積もられる可能性があります。加齢に伴う筋肉量の減少についてはサルコペニアでくわしく扱っています。
この問題を補うために用いられるのが、シスタチンCという指標です。これは体内のほとんどの細胞から一定のペースで産生される小さなタンパク質で、筋肉量の影響を受けにくいという特徴があります。日本人を対象としたシスタチンCによるeGFR推算式も報告されており[6]、必要に応じて臨床で用いられています。
検査値が「何を測っていて、何を測っていないのか」という視点は、腎臓に限らず大切です。この考え方についてはアンチエイジングドックとはでも整理しています。
腎臓の老化は、腎臓だけの話ではない
腎臓の機能が下がると、影響は腎臓の外へ広がっていきます。
血圧との双方向の関係があります。腎臓は体液量とホルモン(レニン・アンジオテンシン系)を通じて血圧の調節に深く関わっており、腎機能が下がれば血圧は上がりやすくなります。そして高い血圧は、腎臓の中の細い血管をさらに傷めます。どちらが先とも言いにくい循環です。
体液のバランスにも関わります。水分やナトリウムの調節の幅が狭くなるため、暑い日に脱水になりやすく、逆に水分や塩分が多いとむくみやすくもなります。むくみそのものの仕組みについては夕方の脚のむくみはなぜ起こる?で扱っています。
慢性炎症とも関係します。腎機能の低下は、体内にくすぶるような炎症を伴いやすいことが知られています。この「インフラメイジング」という考え方については慢性炎症と老化をご覧ください。
また、糖が過剰な状態が続くと、タンパク質と糖が結びついて生じる物質が腎臓の組織にも影響することが指摘されています。この仕組みについては糖化と老化で解説しています。
腎臓のために、日常で意識できること
医学的に確立している範囲で、一般的に言えることを整理します。いずれも治療ではなく、日々の生活の中で意識できる基本的な事柄です。
- 血圧を把握しておく。 腎臓と血圧は互いに影響し合います。家庭で測る習慣は、変化に早く気づく助けになります。
- 脱水を避ける。 特に夏場や発熱時、下痢のときなど。高齢になるほど「のどの渇き」の感覚が鈍くなることが知られています。
- 市販の鎮痛薬を常用しない。 一部の解熱鎮痛薬は腎臓の血流に影響することがあります。長期に飲み続ける必要があると感じたら、自己判断ではなく主治医にご相談ください。
- 血糖と脂質にも目を向ける。 腎臓の細い血管は、全身の血管の状態と切り離せません。
- 検査値を「点」ではなく「線」で見る。 一度の数字より、数年分の推移のほうが多くを語ります。過去の健診結果は捨てずに残しておかれることをおすすめします。
なお、日本国内の診療の考え方は、日本腎臓学会による診療ガイドラインに整理されています[7]。すでに腎機能の低下を指摘されている方は、その指摘をされた医療機関でのフォローを続けていただくことがなにより大切です。
「腎臓は、失ってから戻らない」——救急医の視点から
私は銀座数寄屋橋クリニックの院長を務める前、約20年にわたり国立の医療機関で救急医として勤務し、延べ約36,000人の患者さんの診療にあたってきました。
救急の現場で腎臓について繰り返し考えさせられたのは、この臓器が驚くほど我慢強く、そして我慢の限界を超えたときには戻りにくいということでした。
夏場に運ばれてくる脱水の高齢の方。ご本人は「少し食欲がなかっただけ」とおっしゃる。しかし採血をすると腎機能の数値が跳ね上がっている。点滴で水分を入れれば多くは戻りますが、戻りきらない方も一定数おられます。もともと持っていた予備の部分を、その一度で削ってしまうことがあるのです。
肝臓について、私は以前「機能をまとめて肩代わりする手段がない」と書きました。腎臓には透析という手段があります。その意味で、腎臓は肝臓より恵まれていると言えるかもしれません。
しかし、透析は失われた機能を肩代わりする装置であって、腎臓が戻ってくるわけではありません。週に何度も、何時間もかけて機械につながる生活が始まる。それは救命という意味では大きな進歩ですが、失った臓器が返ってくることとは違います。
だから私は、腎臓については「まだ何も起きていないうちに、変化の速度を知っておくこと」が特に大切だと考えています。腎臓は、痛みも違和感も出さないまま静かに数を減らしていきます。そして減ったネフロンは、増えません。
症状を待つのではなく、数字の推移を見ておく。地味ですが、腎臓に関してはこれがもっとも現実的な向き合い方だと思っています。
まとめ
- 腎臓は毛細血管の塊のような臓器で、心臓から送り出される血液のおよそ4分の1が流れ込みます。全身のめぐりの状態が、そのまま反映されやすい場所です。
- 加齢とともに、機能しているネフロン(腎臓のろ過装置)の数は減っていきます。健康な方を対象とした研究でも、若い年齢層と高い年齢層では働いている糸球体の数に大きな差があることが報告されています。残ったネフロンが仕事を肩代わりするため、検査値には表れにくいという性質があります。
- ろ過能力は平均するとゆっくり低下しますが、その速度には大きな個人差があります。また、クレアチニンは筋肉量の影響を受けるため、「正常値だから腎臓は大丈夫」とは限りません。一度の数字ではなく、数年分の推移で見ることが大切です。
腎臓の老化は、症状としてはほとんど何も語ってくれません。だからこそ、健診の結果を毎年並べて眺めるという地味な作業が、この臓器に対しては意外なほど有効です。
当院はストレスフリー療法を専門に提供しており、全身のめぐりと自律神経のバランスという土台の部分に着目しながら、体の状態を支えることを目指しています(末梢の血流や血圧に関する予備的な研究知見にもとづくもので[8]、はたらき方や結果には個人差があり、腎機能そのものへの効果を示すものではありません。費用は全額自己負担となります)。その科学的な考え方についてはストレスと老化の科学で解説しています。
体のめぐりや生物学的な年齢にご関心のある方は、施術の流れや費用をまとめた当院のメニュー・料金ページもあわせてご覧ください。
よくある質問
Q. eGFRが少し下がっていると言われました。年齢のせいでしょうか、それとも病気でしょうか。
A. その区別は、実は専門家の間でも議論が続いているところです。加齢そのものによる低下と、病気としての慢性腎臓病をどこで線引きするかについては定まった答えがなく、年齢に応じた基準を設けるべきだという意見もあります[3]。大切なのは、一度の数値ではなく推移と、尿検査(尿タンパク・尿潜血)などの他の情報とあわせて評価することです。指摘を受けた医療機関で、まずはご相談ください。
Q. 水をたくさん飲めば腎臓は守れますか?
A. 脱水を避けることは大切ですが、「たくさん飲むほど良い」という単純な話ではありません。心臓の機能や、すでに腎機能が低下している状態によっては、水分の摂りすぎがかえって負担になることもあります。適切な量は状態によって異なりますので、持病のある方は主治医にご確認ください。
Q. 腎機能は回復することがありますか?
A. 脱水や薬剤の影響など、原因がはっきりしていて短期間で起きた低下であれば、その原因が取り除かれることで戻る場合があります。一方、長い年月をかけて失われたネフロンそのものが再び増えるという現象は、現在のところ人間では確認されていません。だからこそ、変化の速度を早めに把握しておくことに意味があると考えています。
参考文献
- Denic A, Lieske JC, Chakkera HA, Poggio ED, Alexander MP, Singh P, et al.「The Substantial Loss of Nephrons in Healthy Human Kidneys with Aging」(2017年、Journal of the American Society of Nephrology, 28(1):313–320)— 健康な腎提供者1,638名を対象に、加齢に伴い硬化していない糸球体の数が大きく減少することを示した研究。doi:10.1681/ASN.2016020154. 出典
- Denic A, Glassock RJ, Rule AD.「Structural and Functional Changes With the Aging Kidney」(2016年、Advances in Chronic Kidney Disease, 23(1):19–28)— 加齢に伴う腎臓の微小構造・肉眼的構造の変化(腎硬化、皮質容積の減少、代償性肥大など)を整理した総説。doi:10.1053/j.ackd.2015.08.004. 出典
- Hommos MS, Glassock RJ, Rule AD.「Structural and Functional Changes in Human Kidneys with Healthy Aging」(2017年、Journal of the American Society of Nephrology, 28(10):2838–2844)— 健康な加齢に伴う腎臓の構造・機能の変化と、加齢と慢性腎臓病の線引きに関する議論を整理した総説。doi:10.1681/ASN.2017040421. 出典
- Lindeman RD, Tobin J, Shock NW.「Longitudinal Studies on the Rate of Decline in Renal Function with Age」(1985年、Journal of the American Geriatrics Society, 33(4):278–285)— ボルチモア加齢縦断研究にもとづき、腎機能の平均的な低下速度と大きな個人差を示した古典的な縦断研究。doi:10.1111/j.1532-5415.1985.tb07117.x. 出典
- Matsuo S, Imai E, Horio M, Yasuda Y, Tomita K, Nitta K, et al.「Revised Equations for Estimated GFR From Serum Creatinine in Japan」(2009年、American Journal of Kidney Diseases, 53(6):982–992)— 日本人向けの血清クレアチニンによるeGFR推算式を報告した研究。doi:10.1053/j.ajkd.2008.12.034. 出典
- Horio M, Imai E, Yasuda Y, Watanabe T, Matsuo S.「GFR Estimation Using Standardized Serum Cystatin C in Japan」(2013年、American Journal of Kidney Diseases, 61(2):197–203)— 標準化されたシスタチンCにもとづく日本人向けGFR推算式を報告した研究。doi:10.1053/j.ajkd.2012.07.007. 出典
- 日本腎臓学会 編『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』(東京医学社、2023年)— 日本国内における慢性腎臓病の診療指針。
- Ryotokuji K, et al.「Effect of pinpoint plantar long-wavelength infrared light irradiation on subcutaneous temperature and stress markers」(2013年、Laser Therapy, 22:93–102)— ストレスフリー療法と皮下温度・ストレス指標に関する予備的な研究。
※上記の研究知見は腎臓の加齢に関する現時点での整理を示すものであり、特定の治療による効果や若返りを保証するものではありません。ストレスフリー療法に関する研究は小規模・予備的なものを含み、腎機能そのものを対象とした研究ではありません。はたらき方や結果には個人差があります。
本記事は健康に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の検査・治療・製品の効果を保証するものではありません。自由診療の費用は全額自己負担となります。気になる症状がある場合は、自己判断せず、当院や婦人科・内科にご相談ください。体の状態には個人差があります。
監修医プロフィール
院長
佐藤 琢紀(サトウ タクノリ)
元国立国際医療研究センター国府台病院救急科診療科長。専門:救急医療、集中治療、ストレスフリー療法、全人的医療。経歴:東北大学医学部卒、順天堂大学大学院卒。命の最前線である救急医療に20年以上従事。「病気になる前に救う」ための戦略的医療を提唱し、2023年より銀座数寄屋橋クリニック院長に着任。救急科専門医、医学博士。
- メッセージ
- こんにちは、院長の佐藤琢紀です。救急医として約20年間、36,000人もの診療に当たってきました。「病気になる前に救いたい」という思いから、いまは予防と若返りの医療へ。専門的な話もできるだけ自分の言葉でやさしくお届けします。様々な情報が溢れる時代だからこそ、「元氣で楽しい人生」を送る“本物”のヒントを皆さまに提供してまいります。 こちらでお願いいたします。
