月経前になると、決まって調子が落ちる。イライラして家族に強く当たってしまう。理由もなく涙が出る。体が重く、頭が働かない。そして月経が始まると、嘘のように軽くなる。

この繰り返しを、「自分の性格の問題」「気の持ちよう」として引き受けてこられた方は、少なくないと思います。

しかし、月経前症候群(PMS)には、医学的な定義があります。 名前があり、診断の考え方があり、対応の選択肢もあります。

この記事では、月経前症候群(PMS)で体の中に何が起きているのかを整理します。なお当院はPMSの専門的な診療は行っておりません。 どこに相談すればよいかについても、あわせて触れます。

PMSとは何か——定義がはっきりしている

日本産科婦人科学会は、月経前症候群(premenstrual syndrome:PMS)を、「月経前3〜10日の黄体期のあいだ続く精神的あるいは身体的症状で、月経発来とともに減退ないし消失するもの」と定義しています[1]。

ポイントは2つあります。

ひとつは、症状の内容ではなく「時期」で定義されていること。 イライラでも、腹部の張りでも、頭痛でも、眠気でも構いません。月経前に現れ、月経が始まると引いていく——このパターンこそが本質です。

もうひとつは、これが例外的な状態ではないこと。 生殖年齢の女性の多くが、程度の差はあれ月経前に何らかの不快感を経験するとされ、そのうち日常生活に大きく支障をきたす重症のPMSは数%程度と報告されています[2]。

さらに、精神症状がとくに強いものは月経前不快気分障害(PMDD)として区別されます。日本の診療指針でも、PMSにはACOGの診断基準、PMDDにはDSM-5-TRの診断基準が用いられると整理されています[3]。

「ホルモンが異常」なのではない

ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。

PMSと聞くと、「ホルモンバランスが崩れているのだろう」と考えたくなります。ところが、PMSのある方とない方で、ホルモンの値そのものに差は見つかっていません。

これを鮮やかに示したのが、1998年に発表された研究です[4]。研究チームは、PMSのある女性とない女性に対して、薬剤で一度卵巣の働きを抑え、その後にエストロゲンやプロゲステロンを投与するという設計をとりました。

結果はこうでした。卵巣の働きを抑えているあいだ、PMSのある方の症状は改善しました。 そしてホルモンを戻すと、症状も戻りました。一方、PMSのない方に同じホルモンを投与しても、症状は起きませんでした。

つまり、同じホルモンの変動に対して、反応の仕方が人によって違う。 問題はホルモンの「量」ではなく、それに対する脳の側の感受性にある——これが現在の主要な理解です[2]。

この違いは重要です。「ホルモンが乱れているから正せばよい」のではなく、「正常な変動に対して強く反応してしまう体質がある」ということだからです。そして、体質は本人の努力不足ではありません。

体の中で、何が起きているのか

具体的な機序はまだ完全には解明されていませんが、いくつかの経路が指摘されています。

プロゲステロンの代謝産物と脳の抑制系。 黄体期に増えるプロゲステロンは、脳内でアロプレグナノロンという物質に変わります。これは脳の抑制性の受容体(GABA-A受容体)に作用する物質で、その濃度変化に対する感受性の個人差が、不安やいらだちの出方に関わると考えられています[2]。

セロトニン系。 セロトニンに作用する薬剤がPMS・PMDDの症状に有効であることが臨床研究で示されており、この系の関与が支持されています(後述)[5]。

自律神経と血管運動。 頭痛、のぼせ、動悸、冷え、腹部の張りといった身体症状には、自律神経を介した血管や消化管の反応が関わります。自律神経そのものの考え方は自律神経の乱れを整える、末梢のめぐりについては手足の末梢の冷えと血流で扱っています。

水分・体液の分布。 月経前のむくみや体重増加の感覚には、体液の分布の変化が関わります。むくみの一般的な仕組みは夕方の脚のむくみはなぜ起こる?をご覧ください。

集中力・思考の鈍さ。 「頭に霧がかかったよう」という表現をされる方もいます。この感覚の一般的な整理はブレインフォグとはで扱っています。

なお、PMSは生殖年齢に起こるものであり、更年期にみられるホルモン低下に伴う変化とは別の現象です。加齢に伴う女性ホルモンの変化についてはエストロゲンと女性の加齢で扱っています。

「気のせい」でも「性格」でもない

はっきり書いておきたいことがあります。

月経前の不調を「わがまま」「甘え」「情緒不安定」といった言葉で説明することは、医学的に誤りです。

前述のとおり、同じホルモン変動でも反応の仕方には個人差があり、その差は意志や性格によるものではありません。そして症状の出方も人により大きく異なります。ある方には強い眠気として、別の方には激しいいらだちとして現れる。症状が違うことは、症状がないことを意味しません。

ご自身に対しても、周囲の方に対しても、この点は同じです。

最初の一歩は、記録

診療の場面で最初に行われるのは、多くの場合症状の記録です。

理由は明快です。PMSの定義が「時期」に依存している以上、症状が月経周期と連動しているかどうかを確かめない限り、診断が成り立たないからです。記憶に頼って振り返ると、印象の強い月だけが残り、実際のパターンとずれてしまいます。

そのため、これから起こることを2周期程度、前向きに記録することが基本とされています[2][3]。

つけるのは難しいことではありません。

  • 月経の開始日と終了日
  • その日の主な症状(複数可)
  • 症状の強さ(0〜3の4段階程度で十分です)
  • 日常生活に支障があったかどうか

これだけで、受診したときの情報量が大きく変わります。「月経前がつらいです」と伝えるのと、2周期分の記録をお見せするのとでは、話の進み方が違ってきます。

どこに相談すればよいか

まずは婦人科です。 PMS・PMDDは産婦人科領域で扱われる状態であり、日本産科婦人科学会からも診断・治療の指針が公開されています[3]。

精神症状がとくに強い場合や、月経周期と関係なく落ち込みが続いている場合には、精神科・心療内科との連携が検討されることもあります。「月経前だけなのか、それ以外の時期にもあるのか」の区別は、この判断で重要になります。ここでも記録が役に立ちます。

治療の選択肢としては、生活面の調整に加え、症状に応じた対症的な治療、排卵を抑える方法、セロトニンに作用する薬剤などが検討されます。セロトニン再取り込み阻害薬については、系統的レビューで重症のPMS・PMDDの症状を軽減する効果が示されています[5]。ただし、適応・用法・副作用の判断は診察のうえで行われるものです。当院はこれらの治療を提供しておりません。具体的な選択については婦人科でご相談ください。

なお「何科に行けばよいか分からない」という状態そのものについては、当ブログの「自律神経の乱れは何科に行けばいい?」でも一般的な考え方を扱っています。

日常で意識できること

以下は一般的な生活上の工夫であり、治療に代わるものではありません。

  • 睡眠を優先する。 睡眠不足は症状の閾値を下げます。黄体期にあたる週は、予定を詰めすぎないという設計そのものが対策になります(寝ても疲れが取れないのはなぜ?)。
  • カフェイン・アルコールを見直す。 いずれも睡眠と自律神経に影響します。症状の強い時期だけでも量を意識してみてください。
  • 運動を習慣に入れる。 強度より継続です。
  • 予定を「周期」に合わせる。 記録がたまると、負荷の高い予定を避けたい時期が見えてきます。これは根性ではなく設計の問題です。
  • 周囲に共有する。 職場や家庭で、時期によって調子が変わりうることを共有しておくと、対応の余地が生まれます。
  • ストレスへの対処を持っておく。 ストレス反応そのものの仕組みはコルチゾールを下げる科学で扱っています。

サプリメントについては、特定の製品をおすすめすることは差し控えます。 服用中のものがあれば、受診時に医師へお伝えください。

「いつからですか」——救急医の視点から

私は銀座数寄屋橋クリニックの院長を務める前、約20年にわたり国立の医療機関で救急医として勤務し、延べ約36,000人の患者さんの診療にあたってきました。

救急外来で最初に伺うことは、ほぼ決まっています。「いつからですか」。

急な出来事であれば、この問いには答えられます。しかし、繰り返し起きている不調ほど、この問いは答えにくくなります。 「前からときどき」「そういえば毎月かもしれません」——腹痛や体調不良で受診された女性から、こうしたお答えをいただくことは珍しくありませんでした。

そして、その場で月経周期との関係が見えることは、まずありませんでした。 救急外来は「今」を切り取る場所であり、周期という時間の構造を扱う設計になっていないからです。

こうした経験から思うのは、周期性のある不調は、記録している人にしか見えないということです。医師の側から見つけ出せるものではありません。本人でさえ、記憶だけでは見落とします。

もうひとつ、現場でよく耳にした言葉があります。「たいしたことないと思って」。 毎月のことだから。皆そうだと聞いたから。だから相談しなかった、と。

けれど、繰り返しているという事実そのものが、相談してよい理由だと私は考えています。一度きりの痛みより、毎月訪れる不調のほうが、人生に占める時間は長いからです。

まとめ

  • PMS(月経前症候群)は、「月経前3〜10日の黄体期に続き、月経の開始とともに軽くなる精神的・身体的症状」として定義されている医学的な状態です。症状の内容ではなく、月経周期との連動というパターンで定義されます。
  • PMSのある方とない方で、ホルモンの値そのものに差は見つかっていません。卵巣機能を抑えると症状が改善し、ホルモンを戻すと症状も戻る一方、PMSのない方に同じホルモンを投与しても症状は起きないことが示されています。問題は量ではなく、変動に対する感受性の個人差だと理解されています。
  • したがって、月経前の不調を性格や意志の問題として説明することは医学的に誤りです。症状の出方の個人差も大きく、症状が違うことは症状がないことを意味しません。
  • 診断の第一歩は、2周期程度を前向きに記録することです。相談先はまず婦人科で、精神症状が強い場合は精神科・心療内科との連携が検討されます。セロトニンに作用する薬剤などの選択肢について、系統的レビューで効果が示されています。

毎月のことだから、と我慢を重ねる必要はありません。記録を持って、一度ご相談いただくところからで十分だと思います。

当院はストレスフリー療法を専門に提供しており、ストレス反応や自律神経のはたらきに着目しながら、穏やかな温熱刺激を通じて体の土台を支えることを目指しています。皮下温度やストレス指標に関する予備的な研究は報告されていますが[6]、これらは小規模な研究であり、当院はPMS・PMDDの専門的な診療は行っておりません。月経前の不調については婦人科をご受診ください(当院の施術は研究知見にもとづく予備的なもので、はたらき方や結果には個人差があり、費用は全額自己負担となります)。その科学的な考え方についてはストレスと老化の科学で解説しています。

日々の負荷とのつきあい方にご関心のある方は、施術の流れや費用をまとめた当院のメニュー・料金ページもあわせてご覧ください。


よくある質問

Q. PMSは何科に相談すればよいですか? A. まずは婦人科です。PMS・PMDDは産婦人科領域で扱われる状態で、学会から診断・治療の指針も公開されています。精神症状がとくに強い場合や、月経周期と関係なく気分の落ち込みが続いている場合には、精神科・心療内科との連携が検討されることもあります。受診の際に2周期分の記録をお持ちいただくと、話が進みやすくなります。

Q. 月経前だけでなく、いつも気分が落ち込んでいます。それもPMSですか? A. PMSは「月経前に現れ、月経開始とともに軽くなる」という周期性で定義されるため、時期に関係なく症状が続いている場合は、別の背景を考える必要があります。ただし、もともとある不調が月経前に強まるという形もあります。この区別は記録によって見えやすくなりますので、症状のある日を毎日記録して受診時にお示しいただくのがよいと思います。

Q. 市販のサプリメントを試してもよいですか? A. 特定の製品をおすすめすることは差し控えます。効果と安全性の検証の程度は製品によって大きく異なり、また服用中の薬との相互作用が問題になる場合もあります。試されている、あるいは試そうとお考えのものがあれば、受診の際に医師へお伝えください。まずは記録と受診を優先していただくのが確実だと考えています。

参考文献

  • 公益社団法人 日本産科婦人科学会「月経前症候群(premenstrual syndrome:PMS)」— 月経前3〜10日の黄体期に続き月経発来とともに減退・消失する精神的・身体的症状というPMSの定義を示した学会の一般向け解説。出典
  • Yonkers KA, O’Brien PMS, Eriksson E.「Premenstrual syndrome」(2008年、The Lancet, 371(9619):1200–1210)— PMSの疫学・病態・診断・治療を整理したセミナー論文。ホルモン値そのものではなく変動に対する感受性の個人差という理解、および前方視的な症状記録の必要性を論じている。doi:10.1016/S0140-6736(08)60527-9. 出典
  • 日本産科婦人科学会 女性ヘルスケア委員会「月経前症候群・月経前不快気分障害に対する診断・治療指針」(2023-2024年度)— PMSにはACOG、PMDDにはDSM-5-TRの診断基準を用いること等を整理した学会の指針。出典
  • Schmidt PJ, Nieman LK, Danaceau MA, Adams LF, Rubinow DR.「Differential Behavioral Effects of Gonadal Steroids in Women with and in Those without Premenstrual Syndrome」(1998年、The New England Journal of Medicine, 338(4):209–216)— 卵巣機能を抑制すると症状が改善し、ホルモン投与で再現される一方、PMSのない女性では同じ投与で症状が生じないことを示した研究。doi:10.1056/NEJM199801223380401. 出典
  • Marjoribanks J, Brown J, O’Brien PMS, Wyatt K.「Selective serotonin reuptake inhibitors for premenstrual syndrome」(2013年、Cochrane Database of Systematic Reviews, Issue 6, CD001396)— 重症のPMS・PMDDに対する選択的セロトニン再取り込み阻害薬の効果を評価した系統的レビュー。doi:10.1002/14651858.CD001396.pub3. 出典
  • Ryotokuji K, et al.「Effect of pinpoint plantar long-wavelength infrared light irradiation on subcutaneous temperature and stress markers」(2013年、Laser Therapy, 22:93–102)— ストレスフリー療法と皮下温度・ストレス指標に関する研究(小規模・予備的な研究であり、PMS・PMDDを対象としたものではありません)。

※上記の資料はPMS・PMDDに関する一般的な医学的理解と学会の指針を示すものであり、個々の方の診断や、特定の治療による効果を保証するものではありません。薬剤の適応・用法・副作用の判断は診察のうえで行われます。ストレスフリー療法に関する研究は小規模・予備的なものを含み、はたらき方や結果には個人差があります。


本記事は健康に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の検査・治療・製品の効果を保証するものではありません。当院は月経前症候群(PMS)・月経前不快気分障害(PMDD)の専門的な診療は行っておりません。月経前の不調でお困りの場合は婦人科を、気分の落ち込みが強い場合は精神科・心療内科等をご受診ください。自由診療の費用は全額自己負担となります。体の状態には個人差があります。

監修医プロフィール

院長

佐藤 琢紀(サトウ タクノリ)

元国立国際医療研究センター国府台病院救急科診療科長。専門:救急医療、集中治療、ストレスフリー療法、全人的医療。経歴:東北大学医学部卒、順天堂大学大学院卒。命の最前線である救急医療に20年以上従事。「病気になる前に救う」ための戦略的医療を提唱し、2023年より銀座数寄屋橋クリニック院長に着任。救急科専門医、医学博士。

メッセージ
こんにちは、院長の佐藤琢紀です。救急医として約20年間、36,000人もの診療に当たってきました。「病気になる前に救いたい」という思いから、いまは予防と若返りの医療へ。専門的な話もできるだけ自分の言葉でやさしくお届けします。様々な情報が溢れる時代だからこそ、「元氣で楽しい人生」を送る“本物”のヒントを皆さまに提供してまいります。 こちらでお願いいたします。