ある日、メニューを腕いっぱいに伸ばして読んでいる自分に気づく。夕方になると画面の文字がにじむ。夜の運転で、対向車のライトがやたらまぶしい。

目の変化は、たいてい「疲れ」か「歳」のどちらかで片づけられます。ただ、このふたつはまったく別の現象です。そして「歳」のほうも、実はひとつの話ではありません。

目という器官は、レンズ(光学系)・フィルム(神経系)・それを養う血管(循環系)という、性質の異なる3つの仕組みが重なってできています。加齢で変わるのは、その3つがそれぞれ別のタイミングで、別の理由で、です。

この記事では、目に起きている変化を層ごとに分けて整理します。そして最後に、眼底が「全身の血管を生きたまま直接見られる唯一の場所」であるという、あまり知られていない話に触れます。なお当院は眼科診療を行っておらず、目の病気の診断・治療についてはご案内しておりません。

目は、3つの仕組みが重なってできている

はじめに構造を確認します。

光学系——角膜と水晶体。外から入ってきた光を曲げて、奥にピントを合わせる部分です。カメラでいえばレンズにあたります。水晶体は自分の厚みを変えることでピント位置を動かしています。

神経系——網膜。眼球の内側に貼りついた、厚さ0.2〜0.3mmほどの神経の膜です。光を電気信号に変えて脳へ送ります。中心にある直径2mmほどの領域が黄斑で、私たちが「見ている」と感じている細かい視力のほとんどは、この一点が担っています。

循環系——網膜の血管と、その外側にある脈絡膜。脈絡膜は血管がぎっしり詰まった層で、体の中でも有数の血流量を持ち、酸素を大量に消費する網膜を裏側から支えています。

「見えにくい」という同じひとことでも、どの層の話かで意味がまったく変わります。ここを分けて考えると、見通しがよくなります。

加齢とともに、目に何が起きているのか

水晶体が硬くなる——老視

40代前後でほぼ全員が経験する変化です。

水晶体は、周囲の筋肉がゆるむと自分の弾力で厚くなり、近くにピントが合います。この調節力は、10代でおよそ10〜12ジオプター(D)あるものが、加齢とともにほぼ直線的に下がり、50代半ばにはほぼゼロに近づくことが古くから知られています[1]。

原因の中心は、水晶体そのものが硬くなることにあると考えられています。筋肉が衰えるからではありません。

ここが実務的に大事なところで、老視は「目の使いすぎ」で早まるものではなく、また「目の体操」で戻せるものでもないと考えられています。年齢とともに全員に起こる、光学系の物理的な変化です。

水晶体が濁る——白内障

同じ水晶体に起きる、別の変化です。

水晶体のタンパク質は、生まれてから一度もほとんど入れ替わりません。だからこそ、長い年月のあいだに紫外線や酸化、そして糖との結合(糖化)といった影響を蓄積していきます。この点については酸化ストレスと抗酸化糖化と老化でも扱っています。

WHOの報告では、白内障は世界の視力障害・失明の原因として最大のものとされ、およそ9,400万人が影響を受けていると推計されています[2]。加齢に伴うごく一般的な変化であり、病気というより「誰にでも起こる水晶体の経年変化」と説明されることもあります。

夜のライトがまぶしい、白っぽくかすむ、といった自覚は、この濁りによる光の散乱で説明がつくことがあります。ただし同じ訴えが別の原因で起こることもあるため、自己判断はせず眼科でご確認ください。

眼底の血流が減っていく

ここが、当院がとくに関心を持っている部分です。

網膜は、体重あたりの酸素消費量でいえば脳をしのぐとも言われる、非常に燃費の悪い組織です。それを支えているのが、裏側を流れる脈絡膜の血流です。

レーザードップラー法を用いた研究では、加齢に伴って中心窩(黄斑の中心)の脈絡膜血流が低下することが報告されています[3]。細い血管が減り、流れが落ちるという現象は、「ゴースト血管」と若返りで扱った毛細血管の話、静かに減っていく腎機能で扱った終末血管の話と、同じ流れの中にあります。

目もまた、微小循環に依存する臓器である。 これが本記事の基本線です。

黄斑という一点

その微小循環の上に乗っているのが、黄斑という直径2mmほどの一点です。

加齢黄斑変性は、この領域が加齢とともに変化し、中心の視力が損なわれる疾患です。世界的な系統的レビューとメタ解析では、2020年におよそ1億9,600万人、2040年には2億8,800万人が影響を受けると推計されています[4]。高齢化が進む地域ほど負担が大きくなる見通しです。

ここで強調しておきたいのは、黄斑がやられると、周辺が見えていても「読む」「顔を見分ける」ができなくなるということです。視野の広さではなく、中心の一点の質が生活を決めます。

片方の目をつぶって、格子や障子の桟をまっすぐ見たときに、線がゆがんで見えないか。 これは自宅でもできる確認方法として知られています。変化があれば、様子を見ずに眼科へご相談ください。

涙の層も変わる

もうひとつ、加齢で変わるのが涙です。涙の分泌量と質は年齢とともに低下し、乾きやすくなります。

「目がしょぼしょぼする」「夕方になると見えにくい」という訴えの背景に、この乾きが混ざっていることは少なくありません。次の章につながる話です。

「目が疲れる」と「目が老ける」は、別の話

ここは分けておく価値があります。

画面を見続けたあとの目の重さ・かすみ・頭痛は、眼精疲労としてまとめられます。パソコン作業に伴うこの一群の症状については、利用者の6〜9割が何らかの視覚症状を経験しているという報告があり、主な原因として眼球運動・調節の問題と、ドライアイが挙げられています[5]。

つまり眼精疲労の主役は、ピント合わせの筋肉の緊張まばたきの減少による乾きです。血流も関係しますが、「疲れ目=血行不良」と単純化はできません。

そして重要なのは、眼精疲労は目を老化させないということです。近くを見続けたから老視が早まる、という関係は確立していません。逆に、老視が始まっていると、無理にピントを合わせ続けることで疲れやすくなる——つまり「老化が疲れを呼ぶ」方向の関係はあり得ます。

順序が逆なのです。

なお、自律神経の緊張が続いているときには、瞳孔やピント調節も影響を受けます。この背景については自律神経の乱れを整えるで扱っています。

眼底は、全身の血管を直接見られる唯一の場所

ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。

私たちは体内の血管を、ふつうは直接見ることができません。画像に映すか、間接的な指標で推し量るしかない。

ただし一箇所だけ例外があります。眼底です。

瞳孔を通して光を入れれば、生きて流れている細い動脈と静脈を、切らずに、そのまま肉眼で観察できる。人体でここだけです。

だから眼底は古くから、全身の血管の状態を読む窓として使われてきました。高血圧による細動脈の変化、糖尿病による網膜の血管の変化は、その代表です。網膜の微小血管の所見が、血圧や全身の血管疾患と関連することは、長く研究されてきました[6]。

同じ発想は、他の器官でも取られています。皮膚の血流を全身の微小循環の代理指標として見る研究、脳の血流を加齢の指標として見る研究——いずれも「見えるところから、見えない全身を推し量る」という考え方です。目は、その中でもっとも解像度が高い窓だと言えます。

言い換えると、目の老化は「目だけの話」ではありません。 血管年齢で扱った大きな血管の硬化と、眼底で見える細い血管の変化は、地続きです。そして細胞・分子レベルでの共通の機序については、「老化の12の特徴」とはで全体像を整理しています。

日常で意識できること

  • 年に一度は眼底を見てもらう。 40代以降は、自覚症状がなくても定期的な眼科受診が勧められています。緑内障のように、視野がかなり欠けるまで自覚が出にくいものもあります。
  • 紫外線を避ける。 水晶体の経年変化に紫外線が関わることは知られています。サングラスやつばのある帽子は、皮膚にとっても目にとっても同じ方向の対策です。
  • 禁煙。 目の加齢性変化に関しても、喫煙は繰り返し危険因子として挙げられています。
  • 血圧・血糖・脂質を放置しない。 眼底で見える変化は、全身の血管の変化の一部です。
  • 画面作業では意識してまばたきをし、こまめに遠くを見る。 眼精疲労の主因が調節の緊張と乾きである以上、理にかなった対処です。集中力を上げるには?で扱った作業の区切り方とも重なります。
  • 睡眠を確保する。 目の症状が「夕方から」に偏る場合、睡眠の質が背景にあることがあります。

一方で、急に見えにくくなった、視野の一部が欠けた、ものが二重に見える、片目だけ線がゆがむ、光がチカチカ走る——こうした症状は、様子を見る対象ではありません。速やかに眼科、状況によっては救急の受診をご検討ください。

「まず瞳孔を見る」——救急医の視点から

私は銀座数寄屋橋クリニックの院長を務める前、約20年にわたり国立の医療機関で救急医として勤務し、延べ約36,000人の患者さんの診療にあたってきました。

救急の現場で、意識のない方が運ばれてきたとき、最初にすることのひとつがペンライトで瞳孔を見ることです。

左右の大きさ、光を当てたときに縮む反応、その速さ。瞳孔の所見は、脳のどのあたりに何が起きているかを推し量る、きわめて早い手がかりになります。CTを撮るより先に得られる情報です。

白目の色も見ます。黄色ければ肝臓を、白すぎれば貧血を疑う。眼底が見られる状況なら、そこに全身の血管の履歴が映っていることもあります。

つまり救急医にとって目は、「見るための器官」である前に、”開いている脳”であり、”開いている血管”でした。外から中を直接のぞける、数少ない窓です。

この見方は、いまも変わっていません。「最近見えにくくて」というご相談を受けたとき、私はまず光学系(レンズ)の話なのか、神経系(網膜)の話なのか、それとも血管の話なのかを分けて考えます。そして眼科受診でしか分からない部分については、迷わず眼科受診をお願いしています。

まとめ

  • 目は、光学系(角膜・水晶体)、神経系(網膜・黄斑)、循環系(網膜血管・脈絡膜)という性質の異なる3つの仕組みでできており、加齢による変化はそれぞれ別に進みます。
  • 水晶体が硬くなることで起こる老視は、調節力が加齢とともにほぼ直線的に低下し、50代半ばにはほぼゼロに近づくことが知られています。目の使いすぎで早まるものでも、訓練で戻せるものでもないと考えられています。
  • 白内障は世界の視力障害・失明の最大の原因とされ、およそ9,400万人が影響を受けていると推計されています。加齢黄斑変性は2040年に世界で2億8,800万人に達すると推計されています。いずれも診断・治療は眼科の領域です。
  • 加齢に伴い、黄斑の中心を裏から支える脈絡膜の血流が低下することが報告されています。目は微小循環に強く依存する臓器であり、その意味で腎臓や脳と同じ問題を共有しています。
  • 「目の疲れ」と「目の老化」は別の話です。眼精疲労の主因は調節の緊張とドライアイであり、それが老化を進めるという関係は確立していません。むしろ老視が始まっていることが、疲れやすさの背景になり得ます。
  • 眼底は、全身の血管を生きたまま直接観察できる人体で唯一の場所です。目の変化を見ることは、目だけを見ることではありません。

見えにくさを「歳だから」で一括りにすると、対処できるものまで一緒に流れていってしまいます。分けて考えることが、いちばんの入口です。

当院はストレスフリー療法を専門に提供しており、末梢の血流に着目しながら、穏やかな温熱刺激を通じて体の土台を支えることを目指しています。脂質異常症の方を対象とした小規模な研究で、施術後に脈絡網膜の血流指標が上昇したとする予備的な報告があります[7]。ただしこれは少人数を対象とした予備的な研究であり、白内障・緑内障・加齢黄斑変性をはじめとする目の疾患の治療や予防を目的としたものでも、その効果を示すものでもありません(当院は眼科診療を行っておりません。はたらき方や結果には個人差があり、費用は全額自己負担となります)。その科学的な考え方についてはストレスと老化の科学で解説しています。

細胞レベルの若々しさや生物学的年齢にご関心のある方は、施術の流れや費用をまとめた当院のメニュー・料金ページもあわせてご覧ください。


よくある質問

Q. 目のトレーニングや「遠くを見る習慣」で、老眼は改善しますか?

A. 老視の中心にあるのは水晶体そのものの硬化という物理的な変化であり、訓練によって調節力そのものを取り戻せるという考え方は確立していません。一方で、近くを見続けたあとに遠くを見て目を休めることは、眼精疲労の対策としては理にかなっています。「疲れを減らす」ことと「老視を戻す」ことは別のものとしてお考えください。矯正の方法については眼科でご相談ください。

Q. ルテインなどのサプリメントは、目の老化を防ぎますか?

A. 栄養素と目の加齢性変化の関係については研究が続いている領域ですが、対象となる病期や条件によって位置づけが異なり、どなたにも一律にお勧めできるものではありません。当院は特定の製品をおすすめする立場にありませんので、必要性の判断は眼科の主治医にご相談いただくのが確実です。

Q. 目が疲れやすいのは、血行が悪いからでしょうか?

A. 血流が関わる場面はありますが、「疲れ目=血行不良」と単純化はできません。パソコン作業に伴う目の症状では、ピント調節の緊張とまばたきの減少による乾きが主な原因として挙げられています。また、老視や未矯正の屈折異常、ドライアイなど、眼科で対応できる原因が隠れていることもあります。目の疲れが続く場合は、めぐりの問題と決めつける前に一度眼科でご確認ください。

参考文献

  • Charman WN.「The eye in focus: accommodation and presbyopia」(2008年、Clinical and Experimental Optometry, 91(3):207–225)— 調節の仕組みと、加齢に伴う調節力の低下(老視)の機序を整理した総説。doi:10.1111/j.1444-0938.2008.00256.x. 出典
  • World Health Organization.「World report on vision」(2019年、WHO, Geneva)— 世界の視力障害・失明の原因と規模を推計した公的報告書。白内障が視力障害・失明の最大の原因であり、約9,400万人が影響を受けているとしている。出典
  • Grunwald JE, Hariprasad SM, DuPont J.「Effect of aging on foveolar choroidal circulation」(1998年、Archives of Ophthalmology, 116(2):150–154)— レーザードップラー法により、加齢に伴って中心窩の脈絡膜血流が低下することを示した研究。doi:10.1001/archopht.116.2.150. 出典
  • Wong WL, Su X, Li X, Cheung CMG, Klein R, Cheng CY, Wong TY.「Global prevalence of age-related macular degeneration and disease burden projection for 2020 and 2040: a systematic review and meta-analysis」(2014年、The Lancet Global Health, 2(2):e106–e116)— 加齢黄斑変性の世界有病率を推計し、2020年に約1億9,600万人、2040年に約2億8,800万人と将来推計した系統的レビュー・メタ解析。doi:10.1016/S2214-109X(13)70145-1. 出典
  • Rosenfield M.「Computer vision syndrome: a review of ocular causes and potential treatments」(2011年、Ophthalmic and Physiological Optics, 31(5):502–515)— パソコン作業に伴う目の症状について、利用者の64〜90%が視覚症状を経験するとし、主因として眼球運動・調節の問題とドライアイを整理した総説。doi:10.1111/j.1475-1313.2011.00834.x. 出典
  • Wong TY, Mitchell P.「The eye in hypertension」(2007年、The Lancet, 369(9559):425–435)— 網膜の微小血管所見と高血圧・全身血管疾患との関連を整理した総説。眼底を全身の微小循環を観察する窓として位置づけている。doi:10.1016/S0140-6736(07)60198-6. 出典
  • Ishimaru K, Nakajima T, Namiki Y, Ryotokuji K.「Influences of Pinpoint Plantar Long-Wavelength Infrared Light Irradiation (Stress-Free Therapy) on Chorioretinal Hemodynamics, Atherosclerosis Factors, and Vascular Endothelial Growth Factor」(2018年、Integrative Medicine Research, 7(1):103–107)— 脂質異常症の方を対象に、ストレスフリー療法の照射前後で脈絡網膜の血流指標等を検討した小規模・予備的な研究(開発者グループによる研究であり、目の疾患の治療や予防を検討したものではありません)。doi:10.1016/j.imr.2017.12.002. 出典

※上記の研究知見は目の加齢に関する一般的な理解を示すものであり、特定の検査・治療・サプリメント・製品による効果や若返りを保証するものではありません。海外で行われた研究の結果を日本の環境にそのまま当てはめられるわけではありません。ストレスフリー療法に関する研究は小規模・予備的なものを含み、はたらき方や結果には個人差があります。


本記事は健康に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の検査・治療・製品の効果を保証するものではありません。当院は眼科診療を提供しておりません。見え方の変化、視野の異常、目の痛みなどの症状については、眼科等の医療機関にご相談ください。急な視力低下や視野の欠けは緊急性があることがあります。自由診療の費用は全額自己負担となります。体の状態には個人差があります。

監修医プロフィール

院長

佐藤 琢紀(サトウ タクノリ)

元国立国際医療研究センター国府台病院救急科診療科長。専門:救急医療、集中治療、ストレスフリー療法、全人的医療。経歴:東北大学医学部卒、順天堂大学大学院卒。命の最前線である救急医療に20年以上従事。「病気になる前に救う」ための戦略的医療を提唱し、2023年より銀座数寄屋橋クリニック院長に着任。救急科専門医、医学博士。

メッセージ
こんにちは、院長の佐藤琢紀です。救急医として約20年間、36,000人もの診療に当たってきました。「病気になる前に救いたい」という思いから、いまは予防と若返りの医療へ。専門的な話もできるだけ自分の言葉でやさしくお届けします。様々な情報が溢れる時代だからこそ、「元氣で楽しい人生」を送る“本物”のヒントを皆さまに提供してまいります。 こちらでお願いいたします。