内臓脂肪は「眠らない臓器」——脂肪組織の老化とアディポカイン
健康診断で腹囲を測られるとき、少しお腹を引っ込めたくなった経験はないでしょうか。
「お腹まわりの脂肪」は、見た目の話として語られることが多いものです。しかし医学の世界では、とくにお腹の内側につく内臓脂肪は、単なる「たくわえ」ではなく、全身の臓器に向けて信号を送り続ける、活動的な組織として研究されています。今回は、脂肪組織の役割と、年齢を重ねるなかで起こる変化を整理します。
脂肪は「ためておく袋」ではない
脂肪組織の基本的な役割は、余ったエネルギーを脂肪としてたくわえ、必要なときに使えるようにすることです。ただし、それだけではありません。
脂肪組織を構成する脂肪細胞は、アディポカインと呼ばれるさまざまな信号物質を分泌しています。これらは血液にのって全身をめぐり、食欲や血糖の調節、炎症の強さなどに関わります。つまり脂肪組織は、内分泌と免疫にまたがる「臓器」として働いている、と考えることができます。
体の脂肪は、おおまかに次の二つに分けられます。
- 皮下脂肪:皮膚のすぐ下につく脂肪。つまんで確かめられる部分です。
- 内臓脂肪:お腹の内側、胃や腸などの臓器のまわりにつく脂肪。外からは見えません。
このうち、代謝との関わりが特に注目されてきたのが内臓脂肪です。
内臓脂肪を知る目安——腹囲という物差し
内臓脂肪は外から直接は見えませんが、目安にする指標があります。日本のメタボリックシンドロームの診断基準(2005年)では、内臓脂肪の蓄積の目安として腹囲(ウエスト周囲径)が用いられ、男性85cm以上、女性90cm以上とされています。この数値は、内臓脂肪の面積が男女とも100cm²以上に相当するという考え方にもとづいています[1]。
なお、メタボリックシンドロームは腹囲だけで判断されるものではなく、血圧・脂質・血糖の項目と組み合わせて判定されます[1]。腹囲は「入口の目安」であり、これだけで健康状態の良し悪しが決まるわけではありません。また、体重(BMI)が標準の範囲でも、内臓脂肪の状態はそれだけでは分かりません。数字は、ご自身の体を知る手がかりとして使ってください。
脂肪組織で起きる「静かな炎症」
脂肪組織が増えて大きくなると、その中で変化が起きることが知られています。2021年に発表されたレビュー論文では、脂肪組織の慢性的で弱い炎症が、代謝の異常や臓器への影響と結びつくと整理されています[2]。
このレビューによると、脂肪組織の炎症は、機能が乱れた脂肪細胞が炎症性のアディポカインを分泌することと、免疫細胞が脂肪組織に入り込んでサイトカインなどを出すことによって、始まり、続いていきます。炎症そのものは弱いものの、離れた臓器の働きにも影響を及ぼすと考えられており、とくに内臓脂肪で重要視されています[2]。
炎症が体にもたらす影響については、慢性炎症と老化「インフラメイジング」で、血糖と老化の関係については糖化と老化で詳しく扱っています。
年齢を重ねると、脂肪組織に何が起こるのか
加齢にともなう脂肪組織の変化として、研究が進んでいるのが老化細胞(分裂を止めたまま体内にとどまる細胞)の蓄積です。
2015年に発表された研究では、老化細胞が脂肪組織に蓄積することが報告されています。ヒトの脂肪の前駆細胞(脂肪細胞のもとになる細胞)を使った実験では、老化した前駆細胞が「アクチビンA」という物質を分泌し、ほかの前駆細胞が脂肪細胞に育つ働きを妨げることが示されました。さらに、高齢のマウスでは、老化細胞の除去や特定の薬剤の投与によって、脂肪組織の変化や代謝の状態が影響を受けたと報告されています[3]。
これは細胞実験と動物実験を中心とした知見ですが、脂肪組織が年齢とともに変わり、全身の代謝にも影響しうるという見方を支える研究のひとつです。老化細胞については「老化細胞」とはで、老化の全体像は「老化の12の特徴」とはで扱っています。
脂肪組織は、肝臓や筋肉などの臓器とも深く関わっています。肝臓については肝臓の老化で、筋肉についてはサルコペニアで解説しています。臓器ごとに老いる速さが違うという考え方は、「臓器年齢」という考え方でまとめています。
日々の暮らしで意識したいこと
特別な方法を探す前に、まず公的な指針を知っておくことが役に立ちます。厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、成人に対し、歩行またはそれと同等以上の身体活動を1日60分以上(歩数にして1日約8,000歩以上)、そして筋力トレーニングを週2〜3日行うことが推奨されています。あわせて、座りっぱなしの時間が長くなりすぎないよう注意することも示されています[4]。
このほか、睡眠、飲酒、食事の内容や時間帯も、体の代謝に関わります。持病のある方や薬を飲んでいる方は、運動や食事の内容を変える前に、主治医に相談してください。急激な減量は、体への負担が大きくなることがあります。
延べ約36,000人を診てきた救急医の視点——「お腹まわり」は体からのサイン
私は銀座数寄屋橋クリニックの院長を務める前、約20年にわたり国立の医療機関で救急医として勤務し、延べ約36,000人の患者さんの診療にあたってきました。
救急の現場で、心筋梗塞や脳卒中といった血管の病気で運ばれてくる患者さんを診ていると、肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病を、いくつも重ねてお持ちの方が少なくなかったというのが、私の実感です。もちろん、お腹まわりのサイズだけで病気になるかどうかが決まるわけではありません。ただ、血管の病気は、ある日突然、症状として現れます。その日を迎える前に、数字として見えている段階で気づけることには、大きな意味があると感じています。
腹囲は、自宅でも測れる数少ない指標のひとつです。健診の結果と合わせて、年に一度でも、ご自身のお腹まわりと向き合う機会をつくってみてください。
まとめ
- 脂肪組織は、エネルギーをたくわえるだけでなく、アディポカインを分泌して全身に信号を送る、内分泌・免疫にまたがる臓器として働いています。
- 内臓脂肪の目安として、日本の診断基準では腹囲(男性85cm以上、女性90cm以上)が用いられます。ただし、腹囲だけで健康状態が決まるわけではありません。
- 脂肪組織の慢性的で弱い炎症は、代謝や離れた臓器の働きと結びつくと考えられています。加齢にともなう老化細胞の蓄積も、研究が進んでいる領域です(細胞・動物実験が中心です)。
- 日々の運動・睡眠・食事は、公的な指針(身体活動ガイド2023)を目安に、持病のある方は主治医に相談しながら整えてください。
脂肪組織は、年齢を重ねても「眠らない」臓器です。その働きを知ることは、ご自身の体を長く大切にするための第一歩になります。
当院はストレスフリー療法を専門に提供しており、ストレスホルモン(コルチゾールなど)や血流に着目しながら、穏やかな温熱刺激を通じて体の土台を支えることを目指しています(研究知見にもとづく予備的なもので、はたらき方や結果には個人差があり、費用は全額自己負担となります)。当院の施術について、肝機能や血糖などの血液検査値を施術の前後で比較した185例の観察研究が報告されています[5]。なお、この論文には当院の関係者が著者として含まれています。お腹まわりや健診の数値が気になる方は、一度ストレスフリー療法をお試しになってみてはいかがでしょうか。まずは当院にお気軽にご相談ください(必要に応じて専門の病院を紹介いたします)。その科学的な考え方についてはストレスと老化の科学で解説しています。
日々の負荷とのつきあい方にご関心のある方は、施術の流れや費用をまとめた当院のメニュー・料金ページもあわせてご覧ください。
よくある質問
Q. 腹囲が基準を超えていました。どうすればよいですか?
A. 腹囲は内臓脂肪の目安のひとつで、血圧・脂質・血糖などの結果と合わせて判断されます。健診の結果を持って、当院にご相談いただくか、内科を受診してください。すでに他院で治療中の疾患がある場合は、主治医へのご相談を優先してください。
Q. 皮下脂肪と内臓脂肪は、見た目や触った感じで区別できますか?
A. 外見や触った感触だけで内臓脂肪の量を正確に知ることは難しいとされています。腹囲は目安になりますが、より詳しく知りたい場合は、医療機関で相談してください。
Q. 急に体重を落とせば、早く改善しますか?
A. 急激な減量は、体への負担が大きくなることがあり、おすすめできません。運動や食事の見直しは、無理のない範囲で、少しずつ進めてください。持病のある方や薬を服用している方は、始める前に主治医にご相談ください。
参考文献
- 厚生労働省「生活習慣病健診・保健指導の在り方に関する検討会 第3回」津下委員提出資料「メタボリックシンドロームの考え方〜判定と生活習慣支援のイメージ〜」(2005年)— 日本のメタボリックシンドローム診断基準(腹囲:男性85cm以上・女性90cm以上、内臓脂肪面積100cm²に相当、血圧・脂質・血糖の基準)を示した公的資料。出典
- Kawai T, Autieri MV, Scalia R.「Adipose tissue inflammation and metabolic dysfunction in obesity」(2021年, Am J Physiol Cell Physiol, 320(3):C375–C391)— 脂肪組織の慢性的で弱い炎症と、代謝疾患・臓器への影響を整理したレビュー。doi:10.1152/ajpcell.00379.2020. PMID:33356944. 出典
- Xu M, Palmer AK, Ding H, et al.「Targeting senescent cells enhances adipogenesis and metabolic function in old age」(2015年, eLife, 4:e12997)— 老化細胞が脂肪組織に蓄積すること、老化した脂肪前駆細胞がアクチビンAを分泌して脂肪細胞への分化を妨げることなどを、ヒト細胞とマウスで検討した基礎研究。doi:10.7554/eLife.12997. PMID:26687007. 出典
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」(成人版)— 成人の身体活動・運動・座位行動の推奨事項(歩行またはそれと同等以上の身体活動を1日60分以上、筋力トレーニングを週2〜3日など)を示した公的指針。出典
- Kamada Y, Sato T, Kessoku T, Sumida Y, Ono M, Ryotokuji K.「Effects of laser acupuncture (stress-free therapy) on blood liver function indicators」(2025年, Laser Therapy, 32:403)— ストレスフリー療法の施術前後の肝機能・血糖・脂質を比較した185例の後ろ向き観察研究(比較対照群なし)。doi:10.4081/ltj.2025.403.
本記事は健康に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の検査・治療・製品の効果を保証するものではありません。気になる症状がある場合は、自己判断せず、当院や内科にご相談ください。胸の痛み、呼吸が苦しいなどの場合は、ためらわず救急要請・救急受診をしてください。自由診療の費用は全額自己負担となります。体の状態には個人差があります。
監修医プロフィール
院長
佐藤 琢紀(サトウ タクノリ)
元国立国際医療研究センター国府台病院救急科診療科長。専門:救急医療、集中治療、ストレスフリー療法、全人的医療。経歴:東北大学医学部卒、順天堂大学大学院卒。命の最前線である救急医療に20年以上従事。「病気になる前に救う」ための戦略的医療を提唱し、2023年より銀座数寄屋橋クリニック院長に着任。救急科専門医、医学博士。
- メッセージ
- こんにちは、院長の佐藤琢紀です。救急医として約20年間、36,000人もの診療に当たってきました。「病気になる前に救いたい」という思いから、いまは予防と若返りの医療へ。専門的な話もできるだけ自分の言葉でやさしくお届けします。様々な情報が溢れる時代だからこそ、「元氣で楽しい人生」を送る“本物”のヒントを皆さまに提供してまいります。 こちらでお願いいたします。
