膵臓とインスリン分泌の加齢——血糖の「揺れ」を老化の視点で読む
健康診断の結果票で、血糖値やHbA1cの欄に目が止まったことはないでしょうか。「去年より少し高い」「基準範囲だけれど、以前よりじわじわ上がっている」——そのような変化は、年齢を重ねるなかで、決して珍しいものではありません。
血糖値を調節する中心にいるのが、お腹の奥にある膵臓です。膵臓は、年齢とともにどのように変わっていくのでしょうか。今回は、インスリンをつくる細胞の加齢という視点から、血糖の「揺れ」を読み解きます。
膵臓は「消化」と「ホルモン」の二つの顔をもつ
膵臓には、大きく二つの役割があります。ひとつは、食べ物を消化する酵素を腸へ送り出す働き。もうひとつは、血糖を調節するホルモンを血液中に分泌する働きです。
後者を担うのが、膵臓のなかに点在する「ランゲルハンス島」と呼ばれる細胞の集まりで、そこにあるβ(ベータ)細胞が、血糖を下げる主役であるインスリンをつくっています。食事で血糖が上がると、β細胞がインスリンを分泌し、筋肉や肝臓、脂肪組織が糖を取り込みやすくなる——この連携で、血糖は一定の範囲に保たれています。
血糖が高くなる背景には、大きく二つの要素があります。インスリンの効きにくさ(インスリン抵抗性)と、インスリンを出す力の低下(分泌の低下)です[1]。このうち、本記事では後者、つまり「出す側」に焦点を当てます。
年齢とともに、β細胞に何が起こるのか
2022年に発表されたレビュー論文では、2型糖尿病は加齢の影響を強く受け、β細胞の量は年齢とともに減っていくと整理されています[1]。
背景のひとつとして研究されているのが、老化細胞(分裂を止めたまま体内にとどまり、炎症を促す物質を出し続ける細胞)の蓄積です。このレビューによると、膵臓のβ細胞では、加齢や糖尿病の進行とともに、老化した状態の細胞が目立つようになることが示されています。マウスの実験では、そのような細胞を取り除くと、糖に対する反応やインスリンの分泌が改善したと報告されています[1]。ただし、これは主に細胞・動物実験の知見であり、ヒトで同じことが確立しているわけではありません。老化細胞については「老化細胞」とはで解説しています。
また、血糖や脂質が高い状態が長く続くと、β細胞に負担がかかり、働きが落ちていく(糖毒性・脂肪毒性と呼ばれる考え方)ことも知られています。2021年のレビューでは、2型糖尿病でみられるβ細胞の機能の喪失が、自然な老化の過程が早まったものに似ている可能性について議論されています[2]。
つまり、β細胞は、加齢そのものの影響と、日々の血糖・脂質の負荷という二つの面から、少しずつ負担を受けていると考えられます。
健診の血糖値を「老化の視点」で読む
健診では、主に二つの項目で血糖の状態を見ます。空腹時血糖は採血した時点の値、HbA1cは過去1〜2か月ほどの平均的な血糖の状態を反映する値です。
数値の判定は、健診結果票に記載された基準範囲と、医師の判断に従ってください。ここでお伝えしたいのは、「基準範囲に入っているか」だけでなく、「前の年からどう動いているか」も見るという視点です。同じ基準範囲内でも、数年かけて少しずつ上がってくる場合は、生活習慣を見直すきっかけになります。
血糖の変化は、血管や臓器にも影響します。血管の老化については血管年齢とは何かで、肝臓については肝臓の老化で、腎臓については腎臓の老化で扱っています。体の中の糖がたんぱく質と結びつく「糖化」の考え方は糖化と老化に、臓器ごとに老いる速さが違うという見方は「臓器年齢」という考え方にまとめています。
ストレスと血糖——分かっていること、まだ分からないこと
ストレスが続くと、体はストレスホルモンであるコルチゾールを分泌します。コルチゾールには血糖を上げる方向に働く面があり、ストレスへの反応を担うHPA軸(視床下部―下垂体―副腎系)の乱れは、インスリン抵抗性や2型糖尿病と関連があることを整理したレビューがあります。たとえば、1日のコルチゾールのリズムが平坦になることと、インスリン抵抗性や2型糖尿病との関連が報告されています[3]。
一方で、同じレビューは、ストレスそのものと糖尿病との関連は、研究のデザインやストレスの測り方によって結果が一致しない部分があるとも述べています[3]。つまり、「ストレスが糖尿病の原因になる」と言い切れる段階ではありません。それでも、睡眠不足や慢性的な緊張が続くと、食事や運動のリズムも乱れやすくなります。ストレスと体の関わりについては、コルチゾールを下げる科学も参考にしてください。
日々の暮らしで意識したいこと
特別な方法を探す前に、公的な指針を目安にすることが役に立ちます。厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、成人に対し、歩行またはそれと同等以上の身体活動を1日60分以上(歩数にして1日約8,000歩以上)、そして筋力トレーニングを週2〜3日行うことが推奨されています[4]。
睡眠、飲酒、食事の内容や時間帯も、体の代謝に関わります。すでに血糖の治療を受けている方、薬を服用している方は、運動や食事の内容を自己判断で変えず、必ず主治医に相談してから進めてください。
延べ約36,000人を診てきた救急医の視点——血糖は「高すぎても、低すぎても」危ない
私は銀座数寄屋橋クリニックの院長を務める前、約20年にわたり国立の医療機関で救急医として勤務し、延べ約36,000人の患者さんの診療にあたってきました。
救急外来では、意識がもうろうとして運ばれてきた方に対して、まず確認することのひとつが血糖値です。血糖は、高くなりすぎても、低くなりすぎても、意識に影響するためです。糖尿病の治療を受けている方では、食事が十分にとれないときなどに血糖が下がりすぎ、冷や汗、ふるえ、強い空腹感、ぼんやりする、意識が遠のくといった症状が出ることがあります。反対に、のどの渇き、尿の量が増える、強いだるさ、吐き気が続いたあとに、ぐったりして運ばれてくる方もいらっしゃいます。
日常の健診では目立たなくても、体調を崩したときに血糖の乱れが一気に表に出ることがある——これは、救急の現場で繰り返し感じてきたことです。だからこそ、元気なうちに、血糖の「動き」に目を向けておくことには意味があります。
次のような場合は、様子を見ずに、ためらわず救急要請・救急受診をしてください。
- 糖尿病の治療中で、冷や汗やふるえのあと、呼びかけへの反応が鈍い、意識がもうろうとしている。
- 強いのどの渇きと多尿が続き、吐き気や嘔吐、息が深く速い、ぐったりして動けない。
- 血糖の高さにかかわらず、意識がおかしい、けいれんがある。
まとめ
- 膵臓のβ細胞がつくるインスリンは、血糖調節の主役です。血糖が高くなる背景には、インスリンの効きにくさと、出す力の低下の二つがあります。
- 加齢とともにβ細胞の量が減ることや、老化細胞の蓄積が研究されています(細胞・動物実験が中心です)。血糖・脂質の負荷も、β細胞の働きに関わると考えられています。
- 健診の血糖値は、基準範囲に入っているかだけでなく、前年からの「動き」も見る視点が大切です。
- ストレスと糖尿病の関連は、研究により結果が一致しない部分もあります。運動・睡眠・食事は、公的指針を目安に、治療中の方は主治医に相談しながら整えてください。
膵臓は、普段はあまり意識されない臓器ですが、毎日の血糖を静かに支え続けています。その働きを知ることは、ご自身の体を長く大切にするための第一歩になります。
当院はストレスフリー療法を専門に提供しており、ストレスホルモン(コルチゾールなど)や血流に着目しながら、穏やかな温熱刺激を通じて体の土台を支えることを目指しています(研究知見にもとづく予備的なもので、はたらき方や結果には個人差があり、費用は全額自己負担となります)。血糖コントロールが不十分な2型糖尿病の患者さん10名を対象に、足への施術の前後で血糖、インスリン、ACTH、コルチゾールを測定した対照群のない小規模・予備的な報告があります(内服薬は継続したまま、1回15分・週1回・平均4週間)[5]。なお、この研究は当院の最高顧問を含む研究グループによるものです。ストレスや健診の数値が気になる方は、一度ストレスフリー療法をお試しになってみてはいかがでしょうか。糖尿病で治療中の方は、治療の継続を最優先に、主治医にご相談のうえでご検討ください。まずは当院にお気軽にご相談ください(必要に応じて専門の病院を紹介いたします)。その科学的な考え方についてはストレスと老化の科学で解説しています。
日々の負荷とのつきあい方にご関心のある方は、施術の流れや費用をまとめた当院のメニュー・料金ページもあわせてご覧ください。
よくある質問
Q. 健診で血糖値が少し高めでした。どうすればよいですか?
A. 結果票に記載された基準範囲と、前年までの数値の「動き」を合わせて見ることが大切です。健診の結果を持って、当院にご相談いただくか、内科(糖尿病内科)を受診してください。すでに他院で治療中の疾患がある場合は、主治医へのご相談を優先してください。
Q. 年齢のせいで、インスリンが出なくなるのは避けられませんか?
A. 加齢とともにβ細胞の量が減ることが報告されていますが、その進み方や血糖への影響には個人差があります。研究の多くは細胞・動物実験の段階で、ヒトで確立しているわけではありません。運動・睡眠・食事などの生活習慣は、血糖や体の代謝に関わります。ご自身の状態については、医師にご相談ください。
Q. 糖尿病の薬を飲んでいますが、運動や食事を変えてもよいですか?
A. 薬を服用している方が運動や食事の内容を大きく変えると、血糖が下がりすぎることがあります。始める前に、必ず主治医にご相談ください。他院で治療中の疾患がある場合は、主治医へのご相談を優先してください。
参考文献
- Murakami T, Inagaki N, Kondoh H.「Cellular Senescence in Diabetes Mellitus: Distinct Senotherapeutic Strategies for Adipose Tissue and Pancreatic β Cells」(2022年, Front Endocrinol (Lausanne), 13:869414)— 2型糖尿病におけるインスリン抵抗性・分泌低下、加齢にともなうβ細胞量の減少、老化細胞の関与を整理したレビュー(動物実験の知見を多く含む)。doi:10.3389/fendo.2022.869414. PMID:35432205. 出典
- Oberhauser L, Maechler P.「Lipid-Induced Adaptations of the Pancreatic Beta-Cell to Glucotoxic Conditions Sustain Insulin Secretion」(2021年, Int J Mol Sci, 23(1):324)— 糖毒性・脂肪毒性とβ細胞機能を整理し、2型糖尿病でのβ細胞機能の喪失を自然な老化の加速に例えて論じたレビュー。doi:10.3390/ijms23010324. PMID:35008750. 出典
- Joseph JJ, Golden SH.「Cortisol dysregulation: the bidirectional link between stress, depression, and type 2 diabetes mellitus」(2017年, Ann N Y Acad Sci, 1391(1):20–34)— HPA軸の乱れと、ストレス・うつ・2型糖尿病の関連を整理したレビュー。ストレスと糖尿病の関連は研究により一致しない部分があるとも述べる。doi:10.1111/nyas.13217. PMID:27750377. 出典
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」(成人版)— 成人の身体活動・運動・座位行動の推奨事項(歩行またはそれと同等以上の身体活動を1日60分以上、筋力トレーニングを週2〜3日など)を示した公的指針。出典
- Ryotokuji K, Ishimaru K, Kihara K, Namiki Y, Hozumi N.「Preliminary results of pinpoint plantar long-wavelength infrared light irradiation on blood glucose, insulin and stress hormones in patients with type 2 diabetes mellitus」(2013年, Laser Therapy, 22(3):209–214)— ストレスフリー療法に関連する小規模・予備的な研究(経口薬でコントロール不十分な2型糖尿病10名・対照群なし)。
本記事は健康に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の検査・治療・製品の効果を保証するものではありません。気になる症状がある場合は、自己判断せず、当院や内科(糖尿病内科)にご相談ください。糖尿病で治療中の方は、治療の変更・中断をせず、主治医にご相談ください。意識がもうろうとしている、冷や汗やふるえのあと反応が鈍い、強いのどの渇きと嘔吐が続くなどの場合は、ためらわず救急要請・救急受診をしてください。自由診療の費用は全額自己負担となります。体の状態には個人差があります。
監修医プロフィール
院長
佐藤 琢紀(サトウ タクノリ)
元国立国際医療研究センター国府台病院救急科診療科長。専門:救急医療、集中治療、ストレスフリー療法、全人的医療。経歴:東北大学医学部卒、順天堂大学大学院卒。命の最前線である救急医療に20年以上従事。「病気になる前に救う」ための戦略的医療を提唱し、2023年より銀座数寄屋橋クリニック院長に着任。救急科専門医、医学博士。
- メッセージ
- こんにちは、院長の佐藤琢紀です。救急医として約20年間、36,000人もの診療に当たってきました。「病気になる前に救いたい」という思いから、いまは予防と若返りの医療へ。専門的な話もできるだけ自分の言葉でやさしくお届けします。様々な情報が溢れる時代だからこそ、「元氣で楽しい人生」を送る“本物”のヒントを皆さまに提供してまいります。 こちらでお願いいたします。
